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Episode6
Chapter2










「お久しぶりです、昭乃さん!」




Suicaを確かめ改札を抜けると、待ち合わせの彼女がいまや遅しと駆け寄ってくる。
その歓迎振りたるや熱烈そのもので、真正面から抱き止めては背中をさするようにして言葉を返していく。





「うんうん。 香澄ちゃんも元気にしてた?」
「はい! 色々大変でしたけど、無事大学生になれました!」
「えらいえらい♪ ちょっと遅いけど、第一志望合格おめでとう」
「あ、ありがとうございます! ほんとに私、もう一生懸命でしたからー!」





満面の笑顔で興奮気味に話すその姿に改めて慕われていたことを実感すると、
引き続き声や表情といった感触のひとつひとつを懐かしさに任せて確かめていった。
こうして直接会うのは、実に昨年の梅雨明け以来のこと。
一転して切り詰められたその端整なショートヘアには少なからず眩しさを覚えるも、
爽やかな手触りのもと言葉を交わせばすぐにもかつての記憶が鮮明なまでに補完されてくるのがわかる。
時計の方は約束の4時を少し回り、挨拶代わりの談笑を思い思いに本日のデートコースをおさらいすると、
まずは新規開通の “みなとみらい線” を目指し、人込み溢れる駅構内を地下へ地下へと下っていった。




















西区の港側に鎮座するJR横浜駅は、計6本のJR線と私鉄線とに加え、
県内唯一の市営地下鉄線をも乗り入れる首都圏近郊でも有数の大型駅施設である。
高層ビルの立ち並ぶ中心地には主要幹線たる国道のほか県内各地を結ぶ高速道路網もまた所狭しと密集し、
その高度に都市化された様子は 『港町横浜』 の奏でるどことなくレトロな雰囲気とは必ずしも一致することはない。
それもそのはず。
いまでこそ都心を成しているこの辺りの地区も本格的な発展は実に戦後になってようやくとのこと、
駅周辺のあのイビツ極まる街並は高度成長を経ての急激な開発振りをある意味物語っているのかも知れない。
実際、職場のある関内や山手など中区の方面にはいわゆる古き良き横浜の姿もまだまだ多く残されている。
それら街々の歴史はいずれも開港当時からのもので、一見都会的な外見にも由緒ある気配が何気なく溶け込んでいる。
メトロとレトロとが併存する街、横浜。
かつての港町が持つその個性は、それ自体控えめでありながらも決してにわか仕込みのものではない。





そんな街並のさなか、横浜の新たな顔として90年代よりめざましく発展を遂げてきた地域がある。
西区側のウォーターフロントに広がる横浜新都心開発地域、いわゆる “みなとみらい21” がそれであり、
いわずと知れたランドマークのもと各種のオフィスや文化娯楽施設が一体となってひとつの都市を成してきている。
比較的最近では新たに地下鉄も開通した。
その名も “みなとみらい線” といい、私鉄線との接続で東京は渋谷までの直通路線が実現されていた。




「うわぁ。 結構潜るんですね、これ」
「うん。 前と違ってちょっと新鮮な感じするね」
「なんだか変わりすぎてワケわからなくなりそう……」
「そのうち全部地下鉄になっちゃったりして。 ふふふ?」
「嫌ですよー、そんな景色見えなくなっちゃうなんてー!」




彼女が驚くのも無理はない。
従来地上駅だった東急東横線ホームは開通工事と共に地下へと移され、
B5にも及ぶその深さは都内の地下鉄一般に比べても底深い印象を受ける。
かくいう私も実は開通時に物見遊山をしたきりで、みなとみらい自体もそう頻繁に訪れることはなかった。
イメージとしては一種の観光地に近いだろうか。
その人足の多さとは裏腹に、地元への定着はまだまだこれからという印象は往々にして根強いものがある。
私は知っている。
あの辺りの地区一帯がまるごと更地だった頃の様子を、いまなお鮮明に覚えている。
当時高校生だった私は、まるで砂漠のように広がるそれら埋立地の姿を予備校の窓より漠然と眺めていたものだ。
そしてそれは、世代を異にする彼女とてまた同じとのこと。
聞けば “みなとみらい線” はおろか有名どころの “赤レンガ倉庫” すら未踏の地であるといい、
そこで今回、久しぶりの再会に合格祝いも兼ね文字通りの観光ツアーへと繰り出す運びになったのである。
目的の下車駅とてやはり、 “みなとみらい” 。
横浜よりわずか2駅のそこは新規路線ならではの直通玄関、
その赤く彩られたエスカレーターのもと中心地たるクイーンズスクエアへと降り立っていった。























◇     ◇     ◇






「うわぁ、景色すごーい!」


ゴンドラへと響く黄色い声。
その元気溢れる姿はまるで疲れを知らないかのよう。




「うん。 でもまだちょっと明るかったかな?」




一方で、こちらの足は半分棒になりかけていた。
見た目以上に歩くことは当初より知れていたはず、クイーンズスクエアにランドマークプラザ、
そしてワールドポーターズとショッピングモールを3つも渡り歩けばさすがに消耗するというもの。
ご丁寧にブーツなど履いてくるのではなかった。
しかも今回の連れは何気に元バスケット部、その控えめな容姿の割に実は筋金入りの体育会系なのである。
次から次へとショップを巡りシャキシャキと歩く姿には思わず若さを感じてしまい、
かくしてやってきたのが今のこの場所、みなとみらい名物の巨大観覧車という訳だった。
最高地点の高さは優に100メートルを超える。
視界にそびえるランドマークには遠く及ばずも、その見渡す限りの眺望はさながら彼女の物語る通りで。
日没直後の薄闇へと浮かぶ、潮の波紋と街の輪郭。
これを境に横浜の街は急激に光度を増し、人々の足元を煌々と照らすなか夜空の星々をもまた飲み込んでいく。





















はじめて出会ったのはいつだったろうか。
あれはそう、確かあの弟がまだ1年生だった頃。
そしてそれは、私にとっても同じく1年目の秋のことだった。






その日の午後はまたいつも通り弟の友達が遊びに来ていて、うちひとりは毎度お馴染みの中島君、
そしてもうひとりは私の知らない子、それも女の子という構図だった。
週末の我が家は両親共に不在が多い。
そのためか、近所の中島君をはじめ親しい友達を連れて来るのは概ねこのタイミングと決まっていたし、
それは日頃気兼ねがちな弟にとって人目を気にせず羽を伸ばすことのできる貴重な時間なのかも知れなかった。
私としても、普段であれば敢えて構うようなことはしないところだけれど……。






『女の子』、である。
あの弟が、翔が、誰であれ家に女の子を連れてきたのである。






これにはさすがに舞い上がってしまった。
どちらかといえば内気で人見知りする子だったので、家にまで呼ぶような友達は自ずと限られてくる。
ましてや異性の友達ともなれば余計に気を使うはずで、少なくとも私の知る限りでは初めてのことだった。
手ぶらで帰したとあっては姉の名が廃るというもの。
素知らぬ顔にて差し入れなどしては愛嬌よく振る舞い、それとなく名前を尋ねてはまたふふふと笑い、
ところが 『弟と仲良くしてね♪』 と姉バカ振りを発揮した途端ドアの外へと追い出されてしまったのだった。




『すいません先輩…。 うちの姉さん、ちょっとブラコン気味なんです……』
『何それおもしろーい! 翔くんちって姉弟仲イイんだー?』
『そりゃまぁな、俺なんかもよく遊んでもらってたし。 …つーかマジ美人じゃねぇ?』
『うんうん! すっごい綺麗だった!』
『だろぉ!? アレこそほら、マジモンのトナリのオネーサンっつーの?』
『…オイ! お前の家はトナリじゃないだろうが!』
『あー? てめーんちなんざ庭だよ庭。 んでもっておめーは犬!』
『ほらほら2人とも! またすぐそうやってー…っ!』




親しい仲間内であることは一目瞭然だった。
あの日以降も週末の午後には大抵見かけるようになっていたし、
しかもよほど印象が良かったのか私の方にまでご指名が及ぶこともしばしばで。
単に会話に混ざるだけのこともあれば時には足並みを揃えて外出するようなこともあり、
片や何ら屈託のない弟の姿に感心する一方で、彼女との個人的親交もまた急速に深まっていった。
異なる世代の割に何かと共感する部分が多かったのは事実である。
しかし個人的な付き合いにまで発展したのはやはり彼女自身の働きかけによるところが大きく、
むしろそうでもなければ私としても弟の友人に対しああも入れ込むようなことはなかったであろう。
理由のほどは定かではない。
ただ彼女は、香澄ちゃんは、それほどまでによく私のことを慕ってくれていたのだ。




そんな彼女が、弟の翔と正式に交際するようになったのは年明け後まもなくのことである。
彼女自身の気持ちはもちろん、そもそも縁組のお膳立てからして中島君の手配があったそうなのだが、
何やらテニス部の同輩に強力なライバルがいるとのことでいまひとつ踏み切れずにいたらしいのだ。
とはいえ、実際蓋を開けてみれば杞憂も杞憂。
意中の相手より逆に告白されるという展開にはむしろ私の方が驚いてしまい、
我が弟ながら意外なほどの甲斐性に思わず感嘆してしまったのを覚えている。
弟にとってはもちろん、彼女にとってもまた初めての恋人だった。
嫌がる弟を他所にお披露目にやってきたのも懐かしく、
いまどき初々しいそんな彼氏彼女の姿には私としてもただ目を細めるばかりで。








奥手な弟にようやくできた、ひとつ年上の愛らしい彼女。
姉弟ともども慕ってくれた、気立ての優しい先輩の恋人。
…………それなのに。












「昭乃さん?」
「…え?」


はっとして視線を上げる。
するとすぐ向かいの席には彼女が、そしてテーブルの脇にはベスト姿のウェイターが控えていた。




「飲み物の注文みたいですけど、どうします?」
「あ、ごめんなさい? ……えっと、このカリフォルニアワインの白を、ボトルで」
「かしこまりました。 他にご注文はございますか?」
「いいえ、とりあえずはそれで」
「ではごゆっくりどうぞ」




メニューを閉じながらほっと一息つく。
コスモワールドの観覧車に赤レンガ倉庫を踏破した私たちは、
その足で関内駅までを戻りつつ途中のレストランバーにて落ち着くことにしていた。
関内といえば何を隠そう職場のお膝元。
周辺の店事情は知り尽くしているし、今回のこの店にしてもすでに勝手知ったるものである。




「わ、ワインなんて飲めるのかな、私……」
「白なら大丈夫だと思うけど。 ふふふ?」
「が、がんばります…!」
「うんうん。 飲み方、ちゃんと覚えておかないと♪」
「は、はい! そろそろ新歓コンパとかもありますし!」
「ふふふふふ♪」








……うん。
今夜はもう、やめよう。
今夜だけは、ただこうして……。










「「乾杯!」」


少し遅くなってしまったけれど。
彼女のこの新しい門出を、いま、ひとりの友人として。




























◇     ◇     ◇








「……翔くん、元気にしてますか?」




宴もたけなわを過ぎる頃。
酔いの回った空気のもと、ふとした隙間に来たるべき台詞が滴り落ちる。






「…翔? 翔なら変わりないわよ。 だってほら、体力だけは一丁前なんだから」




判断に迷っていた。
ここは正面から向き合うべきか。
それともこのまま、こうして白を切り通すべきなのか――。

















私とて何ひとつ知らなかった訳ではない。
単に受験のためばかりではなかったということだ、あの夏を最後に忽然と姿を見せなくなったのは。
時を同じくして音信の方もプツリと途絶えてしまい、かくして互いに音沙汰のないまま空白の月日が流れていった。
その間にも季節は3度移ろいだ。
秋を迎え、冬が過ぎ、そして季節通りに見事満開の桜を咲かせた彼女だったが、
かくしてここに至るまで電話のひとつもなかったという事実には少なからず後ろめたさが残る。
私たち2人にとって、あの弟の存在はそれほどに大きかったということ。
片やかつての恋人たる彼女と、片やその姉である私とでは、やはり微妙な一面が出来てしまうのだということ。
そしていま。
水面下で燻り続けていたその火種は、新たにくべられた見慣れぬ薪によってかつてない炎を生み出しつつあった。






「…私たち、別れちゃったんです」


「ちゃんと言うと、私の方が振られちゃったんですけど…」




酔いのせいか、気持ち鼻にかかった声で重たげに話す彼女。
思いのほかペースが速く、先ほど注文したカクテルもすでに空になってしまっていた。






「…ごめんなさい、いまさらこんなこと」


「でも、昭乃さんにだけは、ちゃんと言っておかないとって…」




虚ろな瞳をゆらゆらと揺らしながら。
私の目を見よう見ようと、必死なまでに焦点を合わせて。








「…翔くん。 他に好きな人、いたみたいなんです」






…………。


その瞬間、私はそっと目を閉じていた。
あくまで自然に。
瞬きをするかのように。














『姉さんなんだ』




瞼の裏に浮かぶのは。






『ずっと前から、姉さんのことが好きだったんだ』




あの日あの時の、弟の姿。


















燃えていくのがわかる。
私の中で、真新しい薪が次々と。


















「そう、だったの…」
「…ごめんなさい。 今までちゃんと、言えなくて…」
「ううん。 私の方こそ、ごめんね?」
「え?」
「だって香澄ちゃん、あんなによくしてくれてたのに…」
「そっ、そんなとんでもないですよー。 私なんてほら、年上なのにほんとダメダメでしたからー♪」
「そんなことない。 そんなことないから」
「ありますよー。 だって私、正輝くんとかにも普通に年下扱いされちゃっててー…」
「……香澄ちゃん」
「はい?」






「短い間だったけど。 弟のこと、ありがとう」




これだけを言いたくて。
そのために私は、今夜この場所に来たのかも知れなかった。






「あは、あはは…。 そんな、改められちゃうと…」


「……でも。 別に未練とかじゃないんですけど。 でも…」


「…誰、だったのかな、って。 それだけでもって、いま思えば、ですけど……」






筋書通りの薮蛇には驚きもしない。
私が本音を語れば、彼女の本心もまた。








「……翔くんの好きだった人。 心当たり、ないですか?」






…………。


目を伏せるように視線を逸らす。
そして。
用意していた台詞を、そのまま口にする。








「…ごめんなさい。 何も聞いてないわ」




その時だった。








「…………嘘」




……え?








思わず顔を上げ、息を飲む。
彼女の視線はもはや揺らいではいなかった。










「…昭乃さん。 いま、嘘つきましたね……?」




…香澄ちゃん。
貴女、まさか……。



























◇     ◇     ◇








「まもなく、保土ヶ谷です。 保土ヶ谷の次は、東戸塚に止まります」




乗客もまばらなJR横須賀線。
停車したところでホームに人影はなく、席を立つ乗客もまたいない。
休日の夜ならではのそんな閑散とした景色の下、座席の片隅にてひとり呆然と視線を止めている自分がいた。


「ドアが閉まります、ご注意ください」


再び動き出す列車に両肩を揺さぶられる。
思い出したように携帯を取り出すと、最後に受信したメールをもう一度開く。








From: 岸本香澄
Sub :
………………………
色々ごめんなさい。
翔くんのことよろしく
お願いします。

























『翔くんのこと、よろしくお願いします』




これだけだった。
彼女の主張はこの一言に尽きていた。






『…それはどういうこと?』
『どうも何も、そのままの意味です』
『二役をやれというの? 私に?』
『それでみんなうまくいくんでしたら』
『…いくわけがないでしょう? そんなこと、あり得るわけが…………』






『………………っ!!』




決定的瞬間。
思わず口に手を当てると、それを最後に呼吸さえも忘れる。






















まさにその、 『あり得ないこと』 を。
そのまさかを。
かつて現実にやってのけたのは、一体誰だったのか。






























『…香澄ちゃん。 貴女はいいの? それでいいの?』




なぜ知っているのか。
どこまで聞いているのか。
そんなことはすでに問題ではなかった。








『私、昭乃さんになりたかったんです』




いまはなき、あの後ろ髪も。






『いつかは昭乃さんみたいにって、初めて会った時から、ずっと…』




よく借りていった、あの本やCDの数々も。








『……だから、いいんです。 昭乃さんなら。 昭乃さんでしたら、私はもう、いいんです』






それが答えだった。
その瞳には一筋の迷いも、なかった。




























ホームにて列車の影を見送ると、気持ち重たげな足取りで階段を上りだす。
一段ごとに足の痛みが戻ってくるようで、改札を抜ける頃には早くも汗が浮きはじめていた。
手近な自販機にてカフェオレを1本買う。
そのこってりとした甘味を束の間の麻酔とし、さして遠くもない家路を騙し騙し辿っていくことにする。






『ごめ、んなさい…。 少し…、休み…ます……』




あの後すぐ、彼女は椅子に腰かけるまま眠るようにその意識を手放してしまった。
そこまできてようやく気が付いた。
直前まであれほど気丈に見えた彼女が、実は寸前のところでようやく踏み止まっていたのだということに。
久しぶりの再開が醸し出す微妙な緊張感と、いまだ足元覚束ないアルコールの席。
いま思えば、その無邪気な笑顔とは裏腹に必ずしも居心地のいい時間ではなかったのかも知れない。
…そう。
彼女とてまた、少なからぬ意図を持ってあの場へと臨んでいたのだから。




最後に店を出る頃にはすでに半時が過ぎようとしていた。
その間にも若干気力を取り戻した彼女は自力での帰宅を望んだが、私の方は迷わずタクシーを呼んだ。
いまだ電車に事欠かない時間とはいえ、未成年の子に酒を飲ませたからには夜道にひとりきりという訳にはいかない。
駄々を捏ねる彼女を否応なく車内に押し込むと、そのまま自分も乗り込んですぐにも車を出してもらうことにした。
行き先は彼女の実家のある東神奈川方面。
ここ関内からではJR線にして3駅の距離である。






『…ごめんなさい』




国道へ出てしばらくすると。
一転して大人しくなった彼女が、半ば消え入りそうな声で囁きはじめる。






『お酒、飲まないと、言えないと思って…』


『お酒飲めば、言えるかなって、そんな風に思ってて…』


『そしたらこんなに、なっちゃって…、ほんとに、ごめ、んなさい……』




最後の方はもう涙声だった。
すでにかけるべき言葉を失っていた私は、ただただその肩を抱き寄せることしかできなくて。
かくして無事実家まで送り届けると、両親の手前平謝りに頭を下げたのみで足早に引き上げてきてしまったのだった。










彼女を泣かせたのは、果たして誰だったのだろうか――。










そんなことを思いながら、門灯に浮かぶ我が家を漠然と眺めていた。
人間関係の糸や情報の流れなど、肝心な所は依然として定かではない。
彼女の告げたあの “答え” とて、必ずしも説得力のあるものとは思えない。
……けれど。
そんないまの私にも確実にわかることが、ひとつだけあった。




「ただいまー」




二階の窓からはわずかに明かりが覗いているのが見えた。
お休みの時間にはまだまだ早いはず、とりあえずは好物の緑茶でも煎れてやることにしよう。
彼女の涙に誓った、この約束を。
この決意のほどを、今夜の夢の中へと置き忘れてしまわないように。















































次回予告:


束の間の別れは自立へのモラトリアム。
絡まる絆を最後に結び直すべく、
ただひとつの決意を、約束の証と共に。


次回、二章第六話、 『約束の唇』 。
二章最終話、ご期待ください。


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