約 束 の 唇
(特別前編)
Episode6
()()(楽屋)
Episode5
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Episode6
(目次)
Chapter3
Chapter2










「久しぶり、翔くん」
「…うん」




抜けるような青空に、うっすらと掠れる白い雲。
ちょうど去年の今頃も、きっと多分、こんな天気だった。






「少し、歩こっか」
「…うん、先輩」




何気なく腕を組むと、気持ち促すように体重を預けていく。
そっと掌を重なれば、もう確かなほど握り返してくれて。
大きな大きなその温もりが、ただ懐かしくて、嬉しかった。
























◇     ◇     ◇








最初に知り合ったのはもうずいぶん前のこと。
一昨年の夏、あれはまだ2年次だった頃の夏休みの話で、




『バスケやんねえ?』




の1行メールがその発端だった。
送り主は “まーくん” こと後輩の中島君、


『うーん♪』


と、いつも通り端的過ぎる内容にもとりあえず即答だけはしておいた。
メンバーからロケーションまでとイベント系のプロデュースは彼の得意どころだったし、
私の方にしても夏合宿に夏期講習と一息ついたところで少し羽を伸ばしたい気持ちがあった。
すぐ直後にも携帯が鳴りはじめる。






校内のアリーナで3on3。
軽く食べながらカラオケ。
あとはその辺で打ち上げ花火。






…と、話の内容はほとんど一方的、しかもすぐ明日の決行と来た。
呆れるほど早くて、本当にあっという間で、気が付けば誰が来るのかも聞いていない。
時間と場所。
電話で聞いたのはそれだけだった。
3on3な訳だから、最低6人はいるはずだけれど……。




『…ま、いっか』




そこまで考えて、携帯を閉じることにする。
まーくんがいるのに、私があれこれ気にしてみたところで。
まーくんがそこにいれば、どんなメンバーだってきっとうまくいくのに。
今までも、ずっと。
明日だって、きっと。
だから私は、約束の時間と場所とを守りさえすればいい。
バスケの出来る恰好で、3時のおやつの頃合に、学校のアリーナへと着いていればそれでいい。
























あの夏一番の暑さだった。
道路は灼け、車の影は揺らぎ、熱っぽい頭に蝉の鳴き声ばかりがエコーしていた。
頬の汗を手首で拭う。
前髪を掻き上げ、キャップをより深く被り直す。
そうして息を整えると、また高温の日差しのなかひとり歩き出す。
あとで聞けば、猛暑のあまり一部の蝉たちが死んでしまうようなこともあったそうで。
“熱中症” といった聞き慣れない用語を耳にするようになったのも、確かちょうどその頃の話。




――本当にみんな、来るのかな。


ふとそんなことを思いながら、信号の度に木陰に身を隠して待つ自分がいた。






学校のアリーナは夏休みを通じて開放されていた。
やはり練習や合宿など部活系の用途が大半だったけれど、それ以外の時間は一般にも開放され、
レクリエーションやイベントスペースなど様々な目的のもと幅広く使われることも少なくなかった。
その日の開放時間について詳しくは覚えていない。
ただ、建物周辺にこれといった気配はなく、向かいのグラウンドにも人影らしいものは見当たらなかった。
ペットボトルを一口し、携帯の時計に目をやる。
時間的にはまだ早く、ちょうど2時半を迎える頃合だった。
そもそもこの猛暑のなかどれだけ集まるかという問題はあるにしろ、
外でひとり待つのも決まり悪く、一足先に建物内へと入ることにする。
スニーカーを脱いで下駄箱に収め、靴下1枚きりのままで。








その瞬間。
耳慣れた震動がアリーナの空気を裂く。








ボールのバウンドに従うように。
それでいて、その行方を導いているかのように。
鋭利なドリブルから軽やかに跳ねると、宙を舞う球体が慣性のままゴールへと吸い込まれていく。
一瞬のマジックなのか、はたまたコマ送りのスローモーションなのか。
リングからネットまでを音もなく突き抜け、再度フロアを叩くボールの衝撃音に止まっていた時間が動き出す。







『まーくん!』


思わず声を上げていた。




『おうっ! 早ぇな!』


ティーシャツにハーフパンツ、そしてヘッドバンド。
それこそ “バスケの出来る恰好” で、文字通りに言葉を投げ返してくる。






一言、汗だくだった。
端正な横顔には水滴の跡が幾筋も見られ、張り付いたシャツのもと半身の輪郭が写し取られている。
単に暑さのせいばかりではないらしい、肩での呼吸を繰り返すその姿は時間的な経過を感じさせるものがあった。
軽いドリブルからのクールダウン。
その間にも持参したシューズを紐解くと、屈伸しがてら手足を伸ばし準備万端整えていく。




『ずっとまーくんだけ?』
『こうアチぃとな』
『貸切だね、ふふ♪』
『だな。 ははは!』


フロアに大の字のまま、小気味よく笑う。
その豪快な様子は見ている側にも清々しい。




『来るかなー、みんな』
『あぁ。 サボるヤツぁ許さねぇ』
『…まーくん?』
『部活なんざ。 遊びはマジだぜ』




その話からようやくとメンバーを知る。
身内絡みで来るのはやはり “うっちー” こと内田さんだけで、
残りの3人についてはテニス部の友人に丸投げしてあるとのこと。
誘ってみたけれど来なかったのか。
それとも最初から、呼んではいなかったのか。
いずれにしても、彼の口から他の部員たちの名を聞くことはなかった。
多少軟派とはいえ、その華のある容姿と取っ付きやすい性格とは学内でも広く人気の的だったけれど、
少なくとも部活内においては、私や内田さんなど一部を除いて半ば孤立していたのもまた事実だった。






端的に言えば、 “センスと直感” 。






決して強いフィジカルではない。
瞬発力を除けばむしろ見劣りさえする。
ただ、それらを補ってあまりあるほどに “巧い” のだ。
フォームやスタイルなどはそれこそ粗削りで我流じみていたけれど、
実力的には入部当初からして一部の主力選手たちを翻弄して見せるほどで。
当の本人からは別段の意識も自覚も見て取れない。
日々の練習はそれなりにこなしつつも、気分が乗らない限りは軽く付き合うか適当に流すかで、
なかでも地道な反復練習やロードワークの類には気を入れて取り組む姿勢が一向に伝わってこなかった。
にもかかわらず、彼なしではすんなりと試合に勝てない。
そこそこ戦えるも決め手がなく、どこかしら晴舞台が用意されている。
誰の目からも面白そうな話ではなかった。
彼の、まーくんの存在は、いわゆる正統派で規律的な部の雰囲気とはそれこそ水と油だった。




その意味では、もうひとりの彼女もまた似たもの同士かも知れない。
同じく部活の後輩で、まーくんの同期生だった内田聖歌さん。
良くも悪くも大人びた子だった。
容姿の割に精神年齢が高く、ひとつひとつの言動に隙がない。
涼しい顔をして常に何かを見透かしていそうな、そんな雰囲気さえ纏っていた。
バスケットの方は中学からの経験者。
新入部員ながら基礎がよく固まっていて、個人技よりはコート全体を見渡していくタイプ。
ところが、彼女自身への信頼感は一向に深まる気配を見せなかった。
部内の人間関係といったものには興味がないのか、思うようにコミュニケーションが進展していかない。
発信の乏しさから素性のほどが定まらず、それでいて周囲の事情は嗅ぎ回る様子もなくいつのまにか察している。
決して表立った話ではなかった。
ただ、足元に漂うその釈然としない違和感は長らく拭われることはなかった。






そんななか、彼らふたりだけの距離が目に見えて近付いていく。






片やあけすけな態度に見透かすところがなく、片や直感で的を得られてはポーカーフェイスの意味もない。
というのは私個人の解釈だけれど、実際ふたりの相性は良く、夏頃にはその手の噂話まで聞かれるようになっていた。
あの日の午後にしても、そう。
彼が主催ならパートナーはいわずもがな、聞いた人であればむしろその場にいた私の方にこそ首を傾げたはず。
……ううん。
誰より驚いていたのは、きっと多分、私。
事実、いつも一緒だったのは私くらいのもので、
それはいま思い返しても不思議に感じてしまうほどで。








『遊びはマジ、…か』
『あ?』




一度目を閉じると、それこそ遊びの気持ちで。
彼の描いた軌跡を辿るように、軽いドリブルからシュートを放つ。
結果はもちろん、ハズレ。
リングに弾かれたボールがフロアへと波紋を残していく。






『惜しかったな』
『…え?』
『いまのはマジ、惜しかった』






意味のほどはよくわからない。
ただ、珍しく感心げな表情でグッドサインなど見せたかと思うと、
すぐにも跳ね起きまたボールの行方を追ってフロアを駆け出していった。


























暑い時には熱い食べ物。
猛暑の昼下がりには汗だくの3on3。
と、そんなこんなで3時を目処に現地集合という話だったけれど、
5分前にうっちーが合流してからは時間を過ぎてもテニス部側の面々は姿を見せずにいた。
こちらの2人はとくに気にする様子もない。
フォームやらドリブルワークやらと互いに確かめつつ無邪気に笑い合うばかりで、
反面どことなく落ち着かずにいた私はひとりフリースローを繰り返すなどしていた。
すると、不意にゲートの辺りから物音が聞こえてくる。
次いで3人の男女が順に姿を見せると、まーくんの表情がニヤリと笑う。
概ねティーシャツ1枚にジーンズという動きやすい服装。
どうやら彼らがそうらしい、アリーナの時計にしてちょうど20分遅れというところだった。




『いやぁー、どもども。 何せこの人の化粧の長さったらもうほんとに、ねぇ?』
『誰の化粧だ! 遅れてきたのはオマエだろうがっ!』
『せ、先輩っ、せっかく遊ぶんですからここは落ち着いてっ…!』




意外にも、顔と名前が一致しないのはひとりだけだった。
藤崎、翔。
見上げるような背丈をしたその大柄な男の子は何とまだ新入生といい、
やたらと照れの入ったちぐはぐな自己紹介が印象的だったのを覚えている。
そのあとの2人についてはいまさら紹介の必要もなかった。
硬式テニス部の “オンナ番長”、 芹沢優紀。
美術部の “天才ナンパ絵師”、 岩田伸彦。
仮にも同学年の立場でこの2人を知らないはずもなく、それこそ本物の “有名人” だった。
一方の私などは自己紹介をしてはじめて同期生と認識されるようなことも割合普通だったりして、
別段興味なさげな彼女の視線と、逆に大げさなほど親しみ深い彼の態度とが改めてそれを物語っていた。






『いいな藤崎? 叩き潰すぞ』
『だから先輩、遊びなんですから…!』




なるほど噂に違わぬ鼻息の荒さ、アップもそこそこに早くも不敵な笑みが覗いて見える。
かくしてボールの感触を確かめ終えると、互いにメンバーを入れ替えゲームをはじめることにした。
手始めに交代したのは岩田君とうっちー。
ひとまずはこちらの部員を散らしてバランスを取る意味合いだったけれど、
これが思いがけずなかなかの采配で結果的に拮抗したチームとして仕上がっていた。
…と、一瞬のフェイントからまーくんが抜かれる。
芹沢さんだ。






『やぁるじゃねぇか、オンナぁ!?』


まさかの表情を見せつつも、その瞳は爛々と輝いていた。




『はっはー! トロイトロイっ……ってああ〜っ!?』
『せーりざわぁーん? 油断は禁物よ〜ん?』
『てめっ、岩田ぁあ!』
『はーいパス、かっすみちゃ〜ん♪』




真正面でキャッチ、完全フリー。
あとは自然と体が付いてくる。








―うん。
この感触。
この爽快感、いい感じ。








ファーストポイントの手応えをハイタッチに込めると、流れる汗を拭ってもう一度キャップを被り直す。
芹沢さんの顔は早くも本気モード、触れたら火傷するかの勢いで急加熱していた。
まーくんの目もいつにない輝きで、普段の練習では見られないノリを感じさせた。
これはもしかすると、期待以上に面白いことになるかも知れない。
思いつつ、私自身もまた気持ちの昂ぶりを抑え切れずにいた。
そう。
本気でやりさえすれば何だって面白い。
一生懸命になればなるほど、爽快感はより増していくばかりで。








『香澄ってさー。 そゆとこ意外に体育会系なんだよね』




友達の多くが口を揃える。







『そそ。 ちょっと熱血入っちゃってるっぽい、みたいな?』




自分でも時々、そう思う。








キャップとスニーカー。
何より身近なものは、常にこの2つだった。
運動自体際立って得意かといえば、決してそんなことはない。
これといって足が速い訳でもバネが強い訳でもなく、体育の成績とて中の上でしかない。
ただ、いわゆるインドア派ではなかったということ。
それだけは確かだと思う。
小さい頃から外で遊ぶのが好きで、それは制服を着る年頃になっても変わらなくて、
昼休みに放課後と半ば日常的に男子達のなかひとりスカート姿で混じっている自分がいた。
バスケットと最初に出会ったのもちょうどその頃のこと。
部活やサークルに入るなどして正式に手を付けはじめたものではなく、
むしろ当時男子達の間で流行りに流行っていたものが自然に、という経緯だった。
習い事ではなく、競技でもなく、文字通り “プレイ” としてのバスケット。
その意味では、まーくんの持つスタンスとも本質的な違いはなかったのかも知れない。




いま思えば、何かと目移りしやすい年頃だったように思う。
髪型がコロコロ変わったり、不釣合なほど着飾ってみたり、さほど意味もなく悪ぶって見せたり。
次々と寄せては返すそうした波のもと、うまい具合に乗っては振り落とされ、知らぬ間に飲まれては首まで浸かり、
まるで試着室のなか端から順に試行錯誤を繰り返しているかのような、そんなめまぐるしい毎日がすぐそこにあった。
けれど私自身に限っては、やっぱり少し、鈍かったというか。
一通り手は付けながらも、基本的に奥手というか、マイペースだったというか。
気が付いてみれば、いつだってひとり乗り遅れていて。
混雑する電車がどことなく億劫で、何本もやり過ごすうちにホームへと取り残される日々が続いていた。
焦りを感じることはなかった。
退屈するようなこともこれといってなかった。
駅の構内には何から何まで揃っていたし、ひとつひとつ歩いて回るだけで時間などいくらでも過ぎていく。
そうしているうちにも、また次の電車がホームを出発していった。
時刻表を見落とすようになると、その次が何分なのかもわからなくなってくる。
やがてはもと来た改札口を自ら飛び出し、ひとり街の外へと繰り出していってしまっていた。
人気のドラマよりも、流行りのロックバンドよりも。
ただ単純に外の空気のもと後ろ髪を揺らしていたいと思う、そんな自分がいて。
背中を押されるまま買い足していたCDの類も、いまではもう何が良かったのかわからなくなってしまっていた。








『まーくん!』
『まかせろ!』


咄嗟のパスを直で返していく。
瞬間、芹沢さんの脇から翔君の壁をすり抜けレイアップシュート。
滞空時間が不思議なほど長くて、それこそ本当に宙を舞っているかのような。




『これだよ!』


ハイタッチの手をつかみ取りながら。




『こういうのがイイんだ! オレは!』




キャップの後ろで跳ねるポニーテール。
自ら奏でるリズムの心地よさに、思わず身震いさえしてしまうほどで。
軽く背中を叩かれるのを気付けに、すぐにもまた彼の後を追ってセンターラインへと走り寄っていく。
誰に伝えるでもなく、どこへ向けるでもなく。
ただ曖昧な交感だけを自覚しつつ、再びアリーナのフロアを駆け出していく自分がいた。
























◇     ◇     ◇








「ねぇ翔くん、まだ覚えてる? あの時のこととか、ほら…」
「…うん。 みんなしてよくやってた。 あの暑いなか、ほんとに」




お昼近い頃の待ち合わせにも、とくにランチの予定とか、そういったものは何もなかった。
舞台に台本と変に用意するよりは、ただふたり向き合うなかもう一度、しっかり。
それこそ電話での誘いの通り、最後の機会に、もう一度だけ。




……でもやっぱり、翔君は翔君だったから。




改札口で顔を合わせるや、もう気の毒なくらい動揺を隠せなくて。
ある程度覚悟もあったろうに、蓋を開けてみれば挨拶ひとつままならず口篭ってしまう有様で。
それならばと、半ば強引に手を取って私の方から歩き出す。
空白の月日に接し方を忘れてしまったような、そんな翔君の姿には内心少なからぬものがあった。
でも、今は。
今日だけは。
湧き上がる想いをひとつひとつ摘み取りながら無言でその手を引いていくと、
東口方面の終着点、横浜そごう・スカイビルとの突き当たりにて地上への階段を上る。






『久しぶり、翔くん』


怖くない。




『少し、歩こっか』


私そんなに、怖くないよ。






抜けるような青空に、うっすらと掠れる白い雲。
五月晴れのゴールデンウィークを見渡す限り目の当たりにするなか、
視界にそびえる高速道路のもと遥か臨海方面へと伸びていくみなとみらい地区。
そこまできて、ようやくと目を合わせ名前を呼ぶことができた。
多少うわずった声色だったかも知れない。
無理矢理な感じの笑顔だったかも知れない。
でも、目の前の翔君には、ちゃんと効いてくれたみたいで。
気まずいばかりだった表情に気持ち安心げな色合いが灯りはじめると、




『…うん、先輩』




って、確かにそう、頷いてくれて。
まだまだぎこちないその笑顔が妙に可笑しかったけれど、
その頃にはもう、私が手を引いて前をいく必要はなくなっていた。






















JR線に地下鉄線と直通玄関こそあるものの、みなとみらいへの道のりは何もそればかりではない。
ここスカイビルの足元から徒歩でというのもまたひとつの手で、ほどよい距離感と広い視界とが絶好の散歩道だった。
すぐ後ろには、まだあの入り組んだ街の姿が無骨なくらい見えるのに。
それがこうして一歩を踏み出すだけで、平らに整えられた埋立地のもと広い道路がまっすぐに伸び、
これといった建物もないなか場所によってはいまだ更地のままという、そんな光景にさえ直面してしまう。
いまさら不思議なことはない。
慣れてしまえば違和感もなくなる。
思い返せば、あれからもう1年近くにもなっていた。
そんなにも離れていたのに、それなのに、その大きな掌は何ひとつ変わることなく手に馴染んでくれていた。
最初に通るチェックポイントは、 “横浜ジャックモール” 。
ふたり並んでショップを巡り、笑顔を重ねてプリクラを撮り、お揃いのフレーバーにてジェラートを口にする。
月日を感じさせない会話のキャッチボールが、むしろ不思議なくらい自然で。
声や視線、それに手触りのひとつひとつが、無性に懐かしくて。
――眩しくて。












…あぁ。
やっぱり、私。
いまでもまだ、翔くんのこと……。












大きな体格。
でも、態度が小さい。
一番強そう。
なのに、真っ先にバテてしまう。
3on3だけじゃない。
サッカーだって、野球だって。
鈍くて、センスなくて、ものぐさそうに見えて。
…でも、翔君は。
本当はいつだって、一生懸命で。




観客席には笑う人もいた。
その度に立ち上がって応援する自分がいた。
一生懸命だったから。
カッコよかったから。
そういうところが、好きだったから…っ。


















「…ごめん、先輩…」




本当は、ずっと前から。






「あの時のこと…。 ごめん……」




こうしてちゃんと、謝りたかった。
















「…ううん、私こそ」




本当は、もっと前から。






「今頃になっちゃって…。 ごめんね……」




こんなに好きだったこと。
もっとずっと、伝えられていればよかった。






















「…行こっか、翔くん」
「…うん。 香澄、先輩」




そっと唇を離し、ふんわりと微笑みかける。
はにかむその笑顔がどことなく寂しげで。
でもなぜか清々しくて、それはきっと、私の方も同じで。
―だから。
翔君とのことは、多分、もう――。


















あとはただ、日が暮れていくのを待つばかり。
この澄んだ空の下、ふたりで。
ゆったりと、ふたりきりで。



















































次回、後編をお送り致します。
ご期待ください。








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