| 近 |
襲われる女
(後編)
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Episode1
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| 親 | ||
| 相 | ||
| 愛 | ||
| Chapter2 |
「ありがとうございましたー」
駅前コンビニあとにすると、そのまま家路すぐさま辿っていく。
手さげ袋中身はアイスクリームとか、お決まり銘柄もちろんハーゲンダッツ。
あの甘い香り濃厚な味わいすっかり病みつきで、疲れた心身なにより薬と毎晩舐めてはそのつど切らすことない。
そんなこんな頼みの万能サプリたるもの、パイントカップのうち1/3は日頃から父のため残してあったりする。
父とくれば、さも甘党である。
ありがち酒飲みは甘いもの好まない傾向ながら、少なくとも我が家の父あてはまらず、
食後一息ともすればお気に入りコーヒーカップ片手なにかしらデザートを口にしている。
これまた燃費わるい父らしく、ロールケーキ、塩豆大福、鯛焼き、…と、まともに重量感なものばかり。
その際きまってブラックコーヒーをして、普段あの特大マグに大量ミルクやらシュガーやらどうしたのかときけば、
『甘党こそブラックだよ、昭乃』
と、甘からず勝手知ったる御様子。
今度また母へ同じく問いかけてみると、
『砂糖自体いらないわ、昭乃』
と、即答されること言うまでもない。
体液からブラックコーヒーとは弟の言、なるほどシュガーインともすればお腹すら壊すのもうなづける。
似たところ紅茶も和茶もいささか顧みることなく、ひとえ中毒そのもの然り、一徹あまり一辺倒すぎる。
そんな母ならず父は酒の味わかる人だけれど、量は飲まずして我が家の食卓さなか安酒ボトルならぶことなかった。
本当においしいもの、惜しみながら、すこしずつ。
まるでひとむかしスコッチ飲みかのよう、それはそれ便乗あやかれるからにはアイスクリームひとついくらでも。
今回えらんだ定番バニラ味ふくめ、おいしいもの今夜もまた、大事にすこしずつ。
かえりみち信号待ちあいま、左手ふと時計に目をやる。
11時半すぎ。
ずいぶん遅くなってしまった。
もうやめよう、いたずら彼女かかわるようなことは。
夜空おもむろ見上げため息ひとつ、さすが今度という今度ばかり懲りに懲りた。
同僚あいま犠牲広がること忍びなくも、首つっこむあまり自らミイラとあっては元も子もない。
森嶋さんたる釣り餌をして3次会まで誘いだされ、間延びペースに気の緩んだところ、まんまと狙われた。
気付いてみれば、いつしかホテル一室さなか。
かろうじて逃げおおせつつ、心中あたかも穏やかならず。
くちびる。
きもち厚めの、量感あの唇。
懐かしい感触といえば、それは昔ながら味わいだった。
…、そう。
懐かしいといえば何もかも懐かしい、学生時代。
そこで奈菜と出会い、恭一くんめぐり逢って。
彼を、選んで。
それ以来、かれこれ何年にもなる。
奈菜とのコトなど、いまさらもう記憶ひとつ断片すぎない。
…と、そう思っていた。
ずっと信じてきたのに、――それなのに。
ものすごい、目をしていた。
ここしばらく経緯から想像つかない、妖艶まなざし、濃厚くちづけ。
今夜の獲物ほかでもなく、しかじか蓋開けてみれば、誰あろう私のことを。
ひとり友人にして職場同僚でもあるこの私を、今日という今日、さもなりふり構わず。
ショックといえば、それなりショッキングではある。
彼女の胸のうち、まだあのころ姿そのままに、取り残されているとでもいうのだろうか。
『あっはーごめんねー♪』
不意に感触よみがえる、ひとえ懐かしいばかりない、あの肉厚くちびるの。
同時にふっと、顔の体温にわか高まるのが。
…、いけない。
私にはもう、恭一くんがいる。
彼をこそ、愛している。
それなのに。
「ばかみたい」
言葉の力はすごい。
口にさえしてみれば、文字どおり馬鹿げている。
ただ声に乗せるばかり、まるで絵に描いたよう馬鹿らしく思えてくる。
卑怯だと思った。
そういう安易な言葉じり、都合よく済ませてきたということ。
真正面あえて向き合うことせず、ひとり片を付けたつもりなっていただけということ。
わかっていた。
最初から全部、わかっていた。
たださすが今晩もう疲れ果て、これ以上あれこれ考えようもなく。
コンビニ袋にはアイスクリームほか堅焼煎餅とも含まれ、今夜かぎらず机ひとり向かう弟への差しいれだった。
来週早々には新年度の始業式ひかえ、そうなればもう名実とも受験生である。
大学受験とはすでに記憶すらおぼろげ遠い思い出ながら、当の弟からすれば目下いまこそ試練という。
歳の差は7年。
7つ年下の、高校生の弟。
かくも歳離れた姉弟それなりめずらしく、まわり似かよった境遇なかなか見当たらない。
兄がひとりいる奈菜とて実際ふたつばかり、正反対しっかり面倒見よかった往時の印象うっすら残っている。
思いやり頼りがいお兄さん対し 『うざい』 だの 『おせっかい』 だの罵詈雑言やら数知れず、
終いには 『ダサイ』 と容赦ない仕打ちの誰かさんにはそのうち天罰くだって然るべきだろう。
そんな言語道断モンスター妹からすると、我が家の弟なんと出来のいいことか。
両親ともじつによく懐いており、その態度いたって従順である。
うん。
うんうん。
せっかくの弟、やはりこうでなくては。
かわいくてかわいくて、ついつい甘やかしてしまう癒し系ともすれば。
そんな彼も、今年もう18歳。
いつのまに高校3年生とか、かくなる歳月のはやさと思う。
ついほんの昔まだまだ小さく幼かったはず、いまやもう見上げるような背丈となり、椅子でもなければ頭ひとつ撫でること容易ならず。
言葉使いしろ自身1人称から 『俺』 に取って代わられ、いつしか私のこと 『お姉ちゃん』 とは昔ながら呼んでくれなくなっていた。
どうしてだろう、 『お姉ちゃん』 の方が絶対いいと思うのに…。
……そもそも、 『俺』 ってなによ。
翔のくせに、生意気。
交差点の信号は、まだ青にならない。
車どおりまばら時間帯、けれどなお、渡らない。
渡ってはいけない。
もう2度と、赤信号さなか人目はばかることはしない。
◇ ◇ ◇
「お父さーん、ちょっと食べない?」
「んんん〜?」
靴そろえ上着かけると、袋の中身ひきかえ前回パイントを冷凍庫より取りだす。
まだ底の方きもち残っていたストロベリー味、ふたつあっては邪魔なので片してしまおうかと。
するといかにも眠たげ生返事、ほかに誰もいないリビングさなかPCのディスプレイぼんやり眺めていた。
かたすみデスクトップすでに4年以上かぞえる年代物で、まだ学生だった当時、就職活動そなえ一式そろった我が家の初代たる機種でもある。
そのコいまだ現役つづけているのはひとえに弟の友人たる中島くん依るところだけれど、しかじか最新版OSにメモリも増設、
ドライブはDVD対応とするなど変わらぬ外見のわり中身ほぼ別物なくらい、そんなこんな家族の愛機いっそう親しまれている。
父いたってはこれでもって1人前ユーザーともすれば人一倍なほど、休日ときおりお昼代名目いくらかお礼といったサイクル成り立っていた。
「アイス、食べない?」
「んん〜? いらない」
「すこし残ってるの。 ほら、新しいの買ってきたし」
「ついさっき食べちゃった。 あとは昭乃のぶん」
「あらそう。 じゃ、もらっちゃうよ?」
「うん、そうしちゃって」
ほんのひとくち舐めるには、ちょっと多いかも。
ふんぎりつかず小皿にスプーンそろえていると、奥の和室ちょうど母の姿みえてくる。
もう寝室かと思っていたのに、ナイスタイミング。
「ねぇお母さん、アイス食べない? すこしだけ」
「こんな時間に。 太るわ」
「あまいよ〜? おいしいよ〜? いっしょに太っちゃおう〜♪」
「あなた。 飲みすぎよ」
誰彼からむのは。
酔っぱらい本能たるもの。
「まぁ悦子。 ふたりとも細いんだし、すこし肉つけたって…」
「あら章宏。 知ったふうなこと」
「いやいや。 もうすこしくらいって、それだけ」
「へぇ〜? お父さんの好みって、もしかして巨乳? ブロンド美女? んふふふ♪」
「おいおい、昭乃まで…。 ただふたりとも食細いから」
「ねぇお母さん、しっかりアイス食べて見返してあげないと! 巨乳よ巨乳!」
「そうね。 金髪碧眼とは笑わせるわ」
父は自身の甘党ぶり裏腹、その立場いつだって甘さ控えめである。
骨太たくましい体躯と温厚おだやか性格もちあわせ、むしろ優柔不断ならずインパクト欠けるところ、
齢50むかえ小粒ながらギリリ辛い姉さん女房おひざもと、うだつ上がらない日々を健気すごしていた。
対する母の素性たるや、端的クールニヒルそのもの。
にべなく素っ気なく、折れず、曲がらず、相手よらず売られた喧嘩は定価で買いうける女帝ぶりだった。
我が家の男性陣が総じて立場弱いのは、それら力関係よるところ少なからずだろう。
あの父と弟ふたり、みるから絵に描いた親子という。
日頃テニスはじめ体育会系さながら様子のわり、中身マイペースかつ天然風味よろしく、さっぱりどこ吹く風もっさり地でいく生態だった。
片やこちらこの、母と自分と現実どうかといえば。
骨格や顔つきいくらか面影残しながら、必ずしも気質性格までと思い至りたくはなかった。
「んん〜! おいしい〜♪」
「あなた。 おおげさよ」
「だって、この味ったら」
「酔っぱらい」
「アイスにね」
「飲みすぎよ」
「コーヒーのこと?」
「あなたねぇ…」
「んふふ…♪」
はしゃぎすぎてしまった。
手すり沿って階段よじ登るも、足取り重く、肩かけバッグずり落ちそう。
居酒屋ハシゴしては酒に飲まれ、知らぬうち連れ込まれては走って逃げ、今晩ノルマもう十二分と果たしてきたはず。
そのうえ帰宅早々さらに素面の家族からんで馬鹿笑いときては、これぞ自画自賛したくもなる。
パイントいっぱい皮肉を込め、自ら誉めてやりたい。
階段ふと1段踏み外す。
かろうじて事なき得るも青息吐息、あわや冷や汗にじむ。
しばらく鳴り潜めていた頭痛も、ここきて再び不穏な気配のぞかせながら。
半ば無理矢理でもって深夜のデザート終えると、母はまもなくしてバスルームへ姿を消していった。
寝食とも気まま極まる暮らしぶり規則性みいだせず、今日の今日また和室こもり映画三昧とのこと、
少しまえ話題作ならでは感想でも尋ねてみれば、こちらさも予想通り 『つまらない』 の一言ばかり。
そもそも恋愛物は母の分野でない。
にもかかわらず気紛れレンタルしてきては、またひとり小首ななめ傾げていたり。
たっぷり入浴済ませるのに半時ほど見るとして、それまで面倒な雑務など片付けておきたい。
荷物おろしスーツを掛け、コンタクト外して洗浄して、…あ、胃薬飲むのも忘れず、えーとそれから。
なにもせずベッドのうえ倒れ込んでしまいたいこと山々だけれど、それでは翌朝さまざま持ち越してしまう。
せっかく貴重な週末すごすためにも、どうにかこうにか、あともうひと踏ん張りしなくては。
かくして2階まで辿りつくと、電気つける余裕なく、暗闇さなか足元ふらつかせていく。
本当に、真っ暗だった。
御手洗いさき、つきあたり右側ドアが自室で、そのすぐ向かい弟の部屋。
普段なら多少でも明かり漏れているのに、今夜もう寝てしまったのだろうか、なにひとつ見えない。
いましがたリビングの時計なお12時半すら至らなかったはず、夜は1時すぎ机に向かい、朝は7時半とも寝坊助にしては早寝と思う。
ただ寝た子を起こすこと忍びなく、笑いそうな膝元つまさき歩き、音立てぬようドアノブそっと手を添えていく。
――それからあと、なにが起こったかわからなかった。
ドア音ふたつ、重なり聞こえたような。
振りかえる暇さえ、なかった。
ひどく、眩暈のする。
平衡感覚ゆらぎ揺らいで、視界なおさら暗転しながら。
くりかえし頭の痛みと耳鳴り共振しあい、さも暗がりあいま増幅していくかの。
とはいえ。
確信得られる事実が、ふたつだけあった。
まずわたし自身ついて、背中の感触ひとつベッドのそれであることわかる。
それから。
そう、もうひとつは――。
「…………、翔?」
真上のしかかり拘束される。
相手かかわる、事実。
「……翔、なの?」
返事らしい様子ことさらない。
目下なにかしら重く大きな生身かたまり、無造作ただ押し潰される感覚あるのみで。
首すじあたり不規則その吐息ひとつ、彼をこそ裏付ける唯一てがかりなっていた。
「翔…っ。 おも、いよ…、どいて……っ」
ものすごい、力と量。
身をよじり隙間逃れようにも、骨太両腕さなか上体まるごと締めつけられ、わずか身動きひとつかなわない。
深々ずしり重みでもって胸元まんなか圧迫され、にわか呼吸ままならず、みしり背骨きしむ音はっきり聞こえてくる。
「やめ、て…。 しょぉ……。 くふ…っ…」
おもい。
いたい。
くる、しい。
はなして……っ。
あたかも事切れてまえ、寸前よろしく半身とも解放される。
かろうじて咽もと気道つなぎとめると、なりふりかまわず左右ななめ逃げまどっていく。
文字どおり必死とは、このこと。
重度の悶絶さなか前後不覚に苛まれ、意識おちつき取り戻すのにどれほど要したのか、その時分なってようやく把握に至る。
おぼろげ暗がりうっすら浮かぶ、見覚えある輪郭と慣れ親しんだ目鼻立ち。
めのまえ迫りくる肩幅体幹から、背すじ深々ぐるり根を張るくらい太腕。
誰あろう、翔だった。
闇夜いまだ慣れないうち、されど嘘も紛れもない、弟の姿かたちだった。
……。
これからのこと、いまや想像するに難くない。
ただ日頃おとなしい彼がこうも唐突に、実家の実姉たるわたし相手さほど無茶をやってのけられるともまた思えなかった。
だって、このコは。
わたしの、わたしの。
だいじな、おとうと。
だいじょうぶ。
きっと、だいじょうぶ。
「……、んむ…」
唇ゆるり、重なる。
自覚より緊張なのか、瞬間ともすれば呼吸すら止まる。
そのつどすぐまた、上体からむ両腕さらなる力もって締め込まれてくる。
いけない。
これではいけない。
にわか肝冷やしているのは、弟とて同じ。
むしろ私のそれより、幾重つめたく凍りついているはず。
おちついて。
おちついて。
いまはただ、受け入れよう。
どのみち力に体格とも敵わない。
弟のキスなんて、誰とてなんでもない。
……。
…………。
………………。
それは不思議な光景だった。
きもち隙間明かり寝室天井もと、血を分けたじつの弟に。
いきおい半身捕らえられるまま、力任せ求められるがまま、ただ唇ひとり委ね。
長いのか、短いのか。
いったいどのくらい、経つのか。
時計の感覚なお戻ることなく、静止した空間うかぶ肉質的体温から、いつとも知れない時間のうち意識もうろう混濁させられていく。
バスタブぬるま湯さなか深々と沈められ、あらがいようない眠気とも全身の焦点ゆっくり失われていくかの。
……、限界。
週末痛んだ羽すでに力なく、墜ちゆく身体ごと為すすべなく引きずられ――。
「……、翔」
視界ゆらぐ、面影ひとつ。
眠りこけていたのか、気を失っていたのか。
唇いつのまに離され、どことなく冷たい表情みせていた。
「もう、いいの…?」
語りかけにも、手応え得られず。
さまざま喪失感ひとたび瞳を閉じ、一転、内心とも引き締めていく。
今度は、そう、わたしの番。
「…、こういうのは、やめよう」
「きもちなら、ちゃんと知ってる」
「でも。 こういうのはもう。 翔……」
端的に尽くした言葉たるや、否定でも罵倒でもなく、むしろ説得だった。
じつの弟かぎらず、肉親相手かかわらず、やっていいこといけないことがある。
人なら誰しも、男性なおのこと、絶対するべきでない行いというものがある。
それすらもしわからないなら、わたし自身あらためこの場でもって教えなければならない。
家族一員なうえ、年長の姉たる使命として、この手みずから確かに教え込まねばならない。
…、翔。
貴方のしたことは。
貴方がいま、していることは……っ!
「――――、ごめん。 姉さん」
いまにも消え入りそう、なのに、ひどく冷たく重い声色だった。
よく知る高めテナーとあまりにかけ離れ、ここぞ選び選んだ台詞かずかず咽もと置き去りのまま、虚しく木霊し消えていく。
かくしてその大柄体格ゆっくり持ちあげると、さも引きずるかの足取り足音もって、すぐ廊下むこう自室へと戻っていった。
ベッド仰向けひとり私のこと振りかえりもせず、ただドア音ばかり事もなく残して。
ふとみれば薄暗く塗り潰された天井、知らぬうち夜目が利いたのだろう、家具にカーテンとあちこち寝室その姿とらえられつつ。
無造作よろしく投げだされ上着やら荷物やら半ば埋もれるようにして横たわっていた私は、
慣れ親しんだ風景ひとつひとつ確かめ、ここきてようやく五感すべて取り戻したことを知る。
――けれど、それはそれまた。
いましがた闇のなか出来事、さも偽らざる事実として突きつけられるに等しかった。
……まさ、か。
あの翔が、こんな。
わたしはいま、弟に……?
「……っ、…………っ…!!」
いきおいベッドから跳ね起き、まさしく転げ落ちるかのようドアへと駆け寄る。
すぐさまロックかけるや否や、ノブを手にしたままその場ひとりへたり込んでしまった。
いったい、なんという。
なんてすさまじい、力だろう。
わずか身動きすら取ること叶わず、もしあのままともすれば、あるいは半身まるまるへし折られていたかも知れない。
そもそも肉親相手ことさら無理を押し通せる状況なかったはず、すぐ階下には両親とも控えているし、
なにより長年培われた姉弟の上下関係たるもの、そうそう容易く乗り越えられるとは考えにくかった。
しかじか奪い去られたとすれば唇ばかり、案の定、それ以上でも以下でもなく。
なかった、…けれど。
もしも、あの重い身体と太い両腕とで、つい今夜 “それ以上” を求められていたら。
もしも、圧倒的その体格差もってして、このさきまた力ずく迫られるようなことあれば。
「はぁ…、はぁ…、はぁ…」
動悸ひどく。
冷や汗とまらず。
両肩ふるえ、収まらない。
「はぁ…、はぁ…、はぁ…、…っ」
…、こんな。
あろうことか、こんな思いを。
なお年端いかない弟に、よりにもよって。
どうして。
どうしてこんなことに。
どうして……っ。
それからというもの、ただその場しばらく座りこみ足腰立てられずいた。
すでに施錠すら済ませた実家の自室というのに、……それなのに。
石のような身体いうこと聞かず、ドアノブからほんの手首離すことが、どうしてもできなかった。
次回予告:
温もり抱かれ迎える、休日の朝。
ただ心地よい微睡み、戯れ愉しむうち。
つがいの羽々とも、やすらぎ折りかさね。
次回、二章第二話、 『休日の微睡み』 。
ご期待ください。
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