| 近 |
襲われる女
(前編)
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| Chapter2 |
どこをどう、走ってきたのか。
わかりもせず、ひたすら一目散だった。
走って、逃げて、気づいたら駅の改札たどり着いていて。
恐るおそる、いましがた来たみち振り返ってみる。
どうやら追ってこられてはいないらしい、刹那おもわず安堵の吐息ひとつ。
それがいけなかった。
いきおい任せ、そのままホームへの階段駆け上がってしまえばよかった。
ふと電光掲示板に 『22:32』 の数字が流れ。
あと2分しかなく、まず乗れそうにない。
いまいまもう、息が続かない。
次の電車は48分発、追いつかれるには十分すぎる。
……。
来るだろうか。
来るはずはない。
自分なら、ぜったい来ない。
なのに、わたしは。
わたしは……。
黒ずくめスーツ組から、学生風ひとだかり。
ほろ酔いただよう駅構内さなか、それらとりとめない雑踏たるを片隅ひとり眺めていた。
右手のスチール缶ほどほど温もり、口内ゆるり転がしつつ、ひりついた咽奥いたわるように。
ことコーヒーかぎって “甘さひかえめ” 手に取ることなく、……ふと目のまえ御一行、思わずぐっと密か握りこむ。
みるから同僚ふたりがかり両脇とも抱えられ、ほとんど意識たえだえ、さも片足ひきずるかの。
無様なオンナ。
なにも千鳥足ヨソサマでなく。
いましがた同じく酩酊しながら、気つけの炭酸を迷ったすえ見送っていた。
酔い冷ましさておき飲みあわせ悪く、半分も残し捨ててしまうこと少なくなかった。
さしあたり幸い、吐き気はしない。
ただ鉛の足腰なうえ、頭痛が酷い。
腕時計の針すでに頃合さし、おっくうやまやま次発まで逃すわけいかず。
いっぱいゴミ箱そっと缶を重ねるようにすると、いまだおぼつかない足取り、つまさきエスカレーターそろり。
なにやらメール着信していたが、にわか青息吐息それどころでなかった。
「この電車は、JR根岸線、普通、大宮行きです。 つぎは、桜木町、桜木町です」
車内放送あわせ、案内表示あかるく映しだされる。
ここそこ空席あるも立ち上がれなくなりそうで、横浜までどのみち2駅、停車間隔もせまく、夜景横目あっというま距離感だった。
ドア越しちょうどランドマークとらえ、新宿のあの都庁しのぐその壮観も、この時間とあって闇夜たたずむ量感シルエットばかり。
……。
たぶん、もう。
さすがにきっと、大丈夫。
車内みまわし追っ手の姿なく、ここきてようやく一息つけた気がしていた。
頭痛の重さ相変わらず、それはそれ胸のうち落ちつき取りもどし、窓の鏡さりげなく襟元ととのえ携帯を開く。
From: 片桐奈菜
Sub: あろはー♪
――。
あれからすぐ送ってよこしたのだろう、予想どおり相手いまさらため息も出ない。
彼女がつい今夜したことは、そう。
昔ならともかく、いまいま絶対あってはならないこと。
それだけひとつ、まちがいない。
事実まちがいない、……はずなのに。
ちからいっぱい、突き飛ばした。
どこかしら怪我などしていないだろうか。
きたない言葉を、吐きかけた。
いきおい傷付けてしまったのではないか。
鳴り止まない罪悪感の反響たるや、携帯てのうち無意識ふるえ、馬鹿げた自覚なお収まらなかった。
From: 片桐奈菜
Sub: あろはー♪
…………………………
おーい昭乃、ご機嫌ど
う?マジ逃げなんて超
ショックーせっかく介
抱してたのに。でつい
ぺろっと、あっはーご
めんねー♪ま、あの元
気なら余裕っぽいけど
ちゃんと帰りなよ?フ
ァッキンハニー。
……。
……、介抱?
介抱ですって?
ついぺろっと!?
ふざけるんじゃないわ!!
力のまま投げつけるところ、かろうじて踏みこらえる。
あの手口して、いささかも悪びれた様子ないこの文面いったい何事かと。
まったく馬鹿にしている。
つくづく心配して損した。
返信などもってのほか、すぐさまポケット奥底ねじ込んでやった。
「ドアが閉まります。 ご注意ください」
桜木町では意外に乗客少なからず、残されていた空席まもなく埋まってしまう。
所在なくドア脇へ肩身寄せると、流れゆく景色とも看板の文字が読めなくなっていく。
吊り革を手に文庫本ひらく女性。
ドアを背にタブレットなぞる男性。
いましがた関内駅とは打って変わった、おもむろ疲労感ただよう緩慢な静けさ。
まぶた閉じている人もちらほら、自分にもまた覚えある感覚で、じつは電車ゆられ途端に眠くなる習性だったり。
通勤時の車内それこそ身動きひとつ、あたり一面、ひと、ひと、ひとだらけ。
なのに視界みずから誰のすがた映ることなく、すぐとなり女性は表情とめていて、まるで人形のよう。
不意に押しつけられる男性の背広はただの壁、どうしてか、ひと相手たる認識そのもの一向に得られない。
空いているならそう、いまいまこの時間しっかりくっきり見て取れるのに。
満員電車でしか味わえない、あの力入れずとも立っていられる、生暖かい空気に不思議な分刻み。
もうすっかり都会の毒なのかどうなのか、ますます居心地よく、なおさら眠気深まる。
『あっはーごめんねー♪』
わたしは怒っているのだ。
そこのところ彼女は、奈菜は。
ちゃんとわかっているのだろうか。
今夜の祝杯といえばそれは盛大なもので、同僚たるひとり森嶋由美の入籍かこつけ、これまた無法地帯ドンチャンさわぎだった。
きっかけ当初より1年待たず巷でいうところ電撃だろうか、お相手は三十路すぎ心身とも若作りなそう、見合ってすぐ運命さえ感じたという。
彼女は思いこみ激しさ要注意人物につき一抹不安など抱かれつつ、人柄と誠実さ折り紙つきウワサ話、同僚とも密か応援していたのだった。
宴会さなか同期から先輩からお気に入り上司まで20人ちかく、それら面々のうち彼女こと片桐奈菜を目にするや驚いた、というより呆れた。
奈菜は今夜の主役とは所属部署が異なり、直接面識ひとつなかったはず。
むしろ参加者全体ふくめ、顔見知りかぞえるくらい。
なのになぜ、ここにいる。
どうしてさしたる関係もない貴女がそうやって主役たる森嶋さんすぐとなり居座り、
いかにも古くから付き合いといわんばかり堂々とノロケ話に相槌うっているのかと。
まったくもって、図々しいにもほどがある。
図々しいといえば、自分のすぐ脇いた先輩いつのまにやら姿を消し、身代りつもりなのか後輩の斎藤くんちゃっかり腰下ろしていた。
昨年入社の新卒経緯なにかと頼りにされつつ、さほど好まないビールこれまた無断にて注ぎ足してくるところ、いかにも。
“斎藤英司” とはその姓名こそ凛々しくも、実物このとおり華奢で童顔、背も低い。
切りそろえた前髪にくりくりした目、さらにその撫で肩ふくめ、スーツ姿まるで制服さながら見える。
正直白状して、かわいい。
かわいらしいばかり、色気がない。
…オバサンキラー?
いやまさか。
今年25になる。
まだ25、である。
けれど同僚や友人あいま、それらしい話題増えつつあるのも、事実といえばまた事実だった。
食事中心1次会は8時まえお開きなり、半分ほど減った面々そのままアルコール主体2次会ながれこんでいく。
わたしといえば移動中なおそば離れようとしない斎藤くん適当に相手しながら、
視線の先もうすっかり森嶋さんと古くから付き合いたる奈菜の姿とらえていた。
宴会魔とは、誰あろう。
もし認定書でもあれば、端から総ナメして然るべき。
カラダのつくり疑われるほどアルコール強く、陽気と妙味な立居振舞もって場の雰囲気たくみ盛りあげ、
それを今回ともブッツケ本番ちゃっかりやってのけつつ、乾杯音頭まっさき取って見せるところがスゴイ。
というより、呆れる。
なにせそもそも、こうした酒席への動機からして根本的まちがっている。
ストレス発散さわぎたいヒトから、合コン気分まま出会い求めにくるヒトやら、あるいは単にお酒飲みたいばかりヒトまで。
結構なこと。
人集まれば、ただそれだけ楽しい。
ところが彼女たるや、およそ学生時代より毎度一夜かぎり行きずり足を運んできたクチである。
1次会にて目星つけ2次会から意気投合とはすでに常套手段、中盤すぎる頃には決まって意中の相手ともこつぜん消え失せてしまうのだ。
これはさすがにどうかと思う。
つい近頃また3つ年上の先輩がやられ、その本人たるや目下さも付きっきりセミロングの女性社員。
しかじか老若男女すら問うことなく、とはいえこちらの部署まだ控えめな方、某課の新入社員などわずか半年足らず全滅の憂き目とかいう。
目も当てられない壊滅的被害よそに、それが今夜という今夜、1次会からして森嶋さんかたわら片時も離れようとしない。
これは、危険である。
ともすれば予断許されない事態といえる。
まさか今宵の主旨ひとつ、よもや理解していない可能性ある。
『なんであなたがいるのよ』
『あたしぬきでどうすんのよ』
お手洗い隙に1度睨み利かせるも、見事これまた居直りあっけらかん。
2次会は関内駅ほどちかいこってり居酒屋でもって、取りあつかい酒類豊富なところ人気の店だった。
にわか森嶋さんの身を案じていた私は入店当初より様子うかがい、そそくさ機先を制し首尾よくとなり陣取りながら、
掘りごたつ8人がけテーブル2つほど貸切に、右からまず御本人、奈菜、自分、そしておまけの斎藤くん片側ずらり。
すぐ向かいまた別の男女それぞれ交互に座りつつ、うち1組は部署内でも半ば公認おしどりカップルときていた。
歳の頃さほど変わらずも立居振舞すでに夫婦同然というか、興味本位ねたみ冷やかしまるきりにべもない。
そして最後ふたり普段温厚ながら酒癖よからぬ男性社員と、なにやらすっかり奈菜に御執心らしき3つ年上の先輩女性である。
早くも素行不良ぎみ絡まれだし嫌そうな顔みせており、ちらりこちら視殺線いかにも恨めしそう。
素知らぬふり斎藤くん左手ほどほど相手しながら、ときおり右側ふたり首つっこんでいくの繰りかえし。
われながら器用なことしていると、つくづく思った。
せっかく選りどりみどり銘柄よそに誰かさん挙動ちくいち気を取られ、9時頃なって店を後にするやどっと疲れがでる。
花の金曜よろしく羽伸ばすところ大の誤算というか、さらに森嶋さんの3次会宣言に奈菜が賛成票投じるなら、付き合わざるを得ないわけで。
そんなこんな最後の最後いきついたのは、すこし奥まったところカクテルバーだった。
来たおぼえない店構え、おすすめ穴場と右目ウィンクひとつ印象残っている。
職場の最寄駅たるJR関内駅周辺は同時に彼女の庭であり、アパートひとり暮らし学生時代からお手のもの、
この地へ越してきたのは比較的最近とはいえ、横浜きっての繁華街とも夜な夜な遊び歩いているのだそうだ。
一方こちら遅くとも2次会かぎり切りあげる傾向、しかし今夜ばかりそうもいかない。
終盤さしかかりなお動きみせないまま、あの顔でめっぽうのんべえ森嶋さんは旦那様ネタ延々ノロケ三昧、
対する奈菜にしろ相槌あいま話題あれこれ落としては、他意なくふたりさも愉快げ談笑しつづけるばかり。
――。
…、おかしい。
普段とっくのとう意中相手と蒸発している時間帯、今晩かぎって何を企んでいるのか。
あるいはそのつもりないのかと小首かしげつつ、いましがた居酒屋より半数以下となった面々を左右横目ちらり。
木造りカウンターに居残り6人きり、まず例の男女ふたり、森嶋さんと奈菜、そして自分、最後おまけの斎藤くん、とまた脈絡ない顔ぶれ。
かれこれ1次会よりずっとの斉藤くんは、この期になお私のそば離れようとしない。
いったいどこまでついてくる気なのだろう、このコは。
仕舞にうちまでとか言いだしそうな、それはそれどこかの誰かさん酔って絡むことなく、得意の愛嬌おしゃべりトークいまいま文句なかった。
そういえばそう、その誰かしら絡み酒うんざり嫌気さしたのか、いましがた先輩は2次会さなか脱落してしまったよう。
それでいい。
その方が、いい。
このさきまだ、続けるなら。
なにかあれば、そのときもう、後戻りできない。
彼女を、奈菜を振り向かせてしまってからでは、もう手遅れなのだから。
――と、舞台裏しかじか思惑どこ吹く風、主役たる森嶋さんといえば終始上機嫌だった。
もともときゃぴきゃぴくるくる表情豊かなところ、聞き上手の奈菜へ手綱にぎらせ本領発揮、
しかしやっていること自体ノロケ以上でも以下でもなく、さも絶賛ノロケ売り尽くし中といった。
1次会ではお相手の性格やら趣味やら大半占めていたはずが、3次会のグラス2杯目ともなればもっぱら下ネタ劇場と化してしまっていた。
情事の逸話からどこがどうでいや〜んばか〜ん♪、…と、お笑いさながらほどほど客の目など気になりつつ、実際とやかく構う暇人もいない。
わるくない店と思う。
奈菜にしては娯楽路線すぎず、飲むにも話すにもそれなりバランスいい。
木材系しつらえ薄暗い店内おぼろげランプの灯り、時計の針ゆっくり進むそんな空気のもと、カウンターそれぞれ琥珀色のグラス傾けていた。
森嶋さんと奈菜の会話たるや、ここへきてなお尽きるところ知らない。
その向こうカップルふたり至っては早くも手指からめ自分たちの世界作り上げてしまっているよう、
目線うかがえる表情それは魅惑的で、瞳と唇たるやいかなる像として網膜結ばれていることだろう。
お似合いな空気と思う。
あのふたり、お店の雰囲気よくあっている。
このお店、ふたりの雰囲気よくあっている。
オンナの方の気持ち、誘いたくなるその気持ちが、つくづくわかる。
うっすら薄灯りゆるり触れあう指と指は裏腹ともすれば熱帯びてみえ、もしこの場に彼がいれば同じように、……と、つい。
しかしながら、現実そうそう甘いものでない。
氷奏でる音色に何度ふりかえれど、すぐとなりグラス揺らすはやはり斎藤くんのままだった。
撫で肩小柄は160センチそこそこといい、対するこちら普通に測って170センチ、ヒールの時点で恭一くんの目線ひとつ超えてしまう。
かくして密か気遣い積年の気後れ相まり、少なくとも恋人てまえ出番知らずな、お気に入りハイヒール。
もっとも今夜この晩からして、小手先演出そもそもお呼びでないけれど。
姓名こそ凛々しい、斎藤英司。
グラスの中身きもち舐めると、途端おおげさ目をまるく。
続いて2度3度咳き込んでみたり、いまさら雰囲気もなにも、最初からあったものでない。
『ちょっと斎藤くん、なにやってるの』
『はぁ、それが…、キツくありません? このお酒』
『スコッチだもの。 ウィスキー』
『スコッチって、ウィスキーでしたか』
『そう。 水割りまえ、40度くらい』
『うわー、40度って。 どうりで』
『ふふ。 上手に割ると、おいしいの』
『う〜ん…。 おいしいとか以前のような』
『あら。 飲めない、てこと?』
『いえ飲めます。 飲みますとも』
『あらそう。 無理しないでね』
するとまたグラスひとくち、いきおい目を白黒させ、よろしく思案げに。
オンザロックのスコッチ四苦八苦する様子は、ともすれば斉藤くんの身なりじつによく合っている。
しかしそんな彼の存在自体、このバーの雰囲気ちっともそぐわない。
さも童顔にして華奢、みるから撫で肩オトコノコ。
思わず吹き出してしまった。
『あーっ、なんですか藤崎さん。 ひとみて笑わないでくださいよー』
『ふふふ? だって斎藤くんったらほら、なにかオカシイんだもの』
『おかしいって、どこがですかー?』
『ぷふっ、くふふっ。 んっふふふふふふ♪』
『ちょっともう、藤崎さんってば!』
『ご、ごめんなさい。 でもだって斎藤くん怒った顔、ヘンな顔ぉ〜』
『まったく藤崎さん、ちょっと飲みすぎですかぁ? そんな顔赤いじゃないですかー』
『なーにいってるの、ぜんぜん酔ってなんかないわ。 こんなのちっとも』
なにかと思えば。
ここきてまさか、誰しも素面たるはずもなく。
グラスの方は早くも3杯目むかえ、1次会より通算あきらか飲みすぎていた。
本心うちあければ、いまいますっかりもう退屈していて。
森嶋さんとは見事なほど何事もなく、お目付け役柄いいかげんシビレひとつ切らしていたうえ、
そのすぐさき男女も変わらず別世界というか、甘苦しい雰囲気やみくも周囲まき散らすばかり。
男性の表情こちら直接うかがえずとも、オンナの顔つきやたらめったら色香のスゴイ。
はため他人こそ妙な気分おちいりそう、かりそめ意識そらすべくまたも連れらしきオトコノコ横目でちらり。
そのコといえば、最初から彼たる恭一くんでなく。
切りそろえた前髪にくりくりした目は、他意なく無邪気かわいい。
かわいらしいばかり、色気がない。
ちっともときめかない。
退屈。
それでお酒の味のみ、集中できる。
ウィスキーはもともと好み、ついついペースあがってしまう。
いいきもち。
お店もわるくない。
今度きっと、恭一くんとふたり。
するりおいしいお酒、とろりまろやか雰囲気、ゆっくり愉しめたら。
ひょっとして同じく、目線の先いまなお瞳潤ませている、あの彼女のように。
それはそれまた、わるくないかも知れない。
どんな顔してみせるだろう。
ふふふふふ。
たのしみ。
……、あぁ。
なにかすごく、いいきもち。
わたし、どうしてここいるんだったっけ。
そういえばそう、やることあった気がしてならないけれど…。
やむをえず、仕方のない――。
◇ ◇ ◇
……。
…、息苦しい。
なんだろう。
ひどく意識もうろう。
手足とも感覚とおのいて。
くちびる。
なにかしら、唇すこし。
ともすれば呼吸さしつかえる、甘苦しい量感でもって。
それが刹那のうち途切れると、唐突な喪失感むしろ気つけになっていく。
すぐ目と鼻のさき、うっすら人影ひとつ。
焦点ゆらぐまま胸元あたりブルーの下着なのか、白いシャツ1枚きり、裾野ふともも生身のぞかせ。
お腹まわりいささか圧迫感おぼえ、その誰かしら半身まるごと跨いでのしかかられていた。
次第に表情とも網膜結びつつ、――思わず絶句してしまう。
どういう、目をしているのだろう。
怒気とも孕んだ食欲ぎらり煮えたぎる、さも狩猟さながら鬼気迫る。
片やとろり粘液うるおう妖艶くちもと、紅い紅いその上唇を、ゆっくりたっぷり舌なめずり。
『…………、……ナナ?』
――。
そうか。
そういうこと。
どうりでやけに、なるほど大人しい。
今夜の対象たるや誰あろう、他でもない獲物相手すぐまたあの感触が。
…、いけない。
その唇は、このうえなく危険。
わたし自身かつて、身をもって思い知っている。
なのに、それなのに……。
……、いいきもち…。
次回、後編をお送り致します。
ご期待ください。
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