終戦の詔勅

注:1
難しい言葉には、括弧内に読み方と意味を入れました。

注:2
終戦の詔勅が出された日付は、「 放送 」 が行われた 8 月 15 日ではなく、 その前日でした。

その空白の 1 日には徹底抗戦を主張する一部の陸軍将校達による近衛師団長 ( 森中将 )、白石参謀 ( 中佐 ) の殺害、玉音 ( 天皇の声 ) 放送阻止のために皇居に乱入して玉音の録音盤の捜索等の クーデター 未遂事件がありました。

しかし陸軍参謀総長 ( 梅津大将 ) が クーデター に同調せず、東部軍管区司令官 ( 田中大将 ) に鎮圧され、最後まで降伏に反対していた阿南惟幾 ( あなみこれちか ) 陸軍大臣の自決 ( 8 月 15 日午前 4 時 40 分 ) により、ドラマの幕が閉じました。

死亡時刻については別の資料もあります。陸軍大臣の高級副官美山要蔵大佐が残したメモによれば、15 日午前 7 時 10 分絶命とありました。

注: 3
詔勅は耳から聞いて理解する為に書かれたものではなく、 目で読んで理解する為のものでした。

参考までにその当時の国民の教育水準とは、義務教育終了後の上級学校 ( 旧制中学や女学校のことで現在の高校に相当 ) への進学率が全国平均で 15 パーセント 程度でしたが、現在の高校進学率は 95 パーセント です。

玉音放送の内容を正確に理解できたのは、 康寧、庶幾、五内、排擠、軫念、信倚 などの難しい言葉を耳で聞いただけで意味が分かる、漢学の知識 ・ 教養に優れた ごく少数の人達だけでした。

注: 4
偶然なのでしょうが、この詔勅はあたかも 8 月 15 日に ちなんだかのように、 815 字 の文字で書かれていました。


天皇の玉音放送、音声


朕 ( チン、天皇の 一人称 ) 深ク世界ノ大勢ト帝国ノ現状トニ鑑 ( カンガ )ミ、非常ノ措置ヲ以テ時局 ( ジキョク、世の中の状態 ) ヲ収拾セムト欲シ、茲 ( ココ ) ニ忠良ナル爾 ( ナンジ ) 臣民ニ告ク。
朕ハ帝国政府ヲシテ米英支蘇 ( 中国、ソ連 ) 四国ニ対シ、其 ( ソ ) ノ共同宣言ヲ受諾スル旨通告セシメタリ。

抑々( ソモソ ) モ帝国臣民ノ康寧 ( コウネイ、平穏無事 ) ヲ圖 ( ハカ ) リ萬邦共栄 ( バンポウキョウエイ、多くの国が共に栄える ) ノ楽 ( タノシミ ) ヲ偕 ( トモ ) ニスルハ、皇祖皇宗 ( コウソコウソウ、歴代天皇の祖先 ) ノ遺範 ( イハン、死後に残された手本 ) ニシテ朕ノ拳々( ケンケン、奉持することから、心中に銘記し ) 措 ( オ )カサル ( 粗略にしない )所。

曩( サキ、先 ) ニ米英二国ニ宣戦セル所以( ユエン ) モ亦 ( マタ ) 実ニ帝国ノ自存ト東亜ノ安定トヲ庶幾 ( ショキ、切に願い望む ) スルニ出 ( イ )テ、他国ノ主権ヲ排シ領土ヲ侵スガ如キハ固 ( モト ) ヨリ朕ガ志 ( ココロザシ ) ニアラス。

然ルニ交戦巳 ( スデ ) ニ四歳( シサイ )ヲ閲 ( ケミ、経過 )シ、朕カ ( が ) 陸海将兵ノ勇戦、朕カ ( が ) 百僚 ( ヒャクリョウ、多くの官吏 ) 有司 ( ユウシ、それぞれのつかさにある人達 ) ノ励精、朕カ ( が ) 一億衆庶 ( シュウショ、庶民 ) ノ奉公各々 ( オノオノ ) 最善ヲ盡セルニ拘ラス戦局必スシモ好轉 ( コウテン ) セス、世界ノ大勢亦 ( マタ )我ニ利アラス。

加之 ( コレニクワヘ ) 敵ハ新 ( アラタ ) ニ残虐ナル爆弾ヲ使用シテ頻 ( シキリ ) ニ無辜 ( ムコ、罪のない者 ) ヲ殺傷シ惨害ノ及所 ( オヨブトコロ )、真( マコト )ニ測ルヘカラサルニ至ル。而 ( シカ ) モ尚交戦ヲ継続セムカ ( すれば ) 終 ( ツイ ) ニ我カ民族ノ滅亡ヲ招来スルノミナラス、延 ( ノベ、先に至れば ) テ人類ノ文明ヲモ破却 ( ハキャク、破壊こわす ) スヘシ。

斯 ( カク ) ノ如クムハ ( なれば ) 朕何ヲ以テカ億兆ノ赤子 ( セキシ、天皇の子つまり国民 ) ヲ保シ、皇祖皇宗 ( コウソコウソウ、歴代の天皇の祖先 ) ノ神霊ニ謝 ( シャ、謝罪 )セムヤ。是 ( コ ) レ朕カ ( が ) 帝国政府ヲシテ共同宣言ニ応セシムルニ至レル所以 ( ユエン ) ナリ。

朕は帝国ト共ニ終始東亜ノ解放ニ協力セル諸盟邦ニ対シ、遺憾ノ意ヲ表セサルヲ得ス。

帝国臣民ニシテ戦陣ニ死シ、職域ニ殉シ、非命ニ斃 ( タオ ) レタル者、及ヒ其 ( ソ ) ノ遺族ニ想 ( オモイ ) ヲ致セハ、五内 ( ゴダイ、五体、五臓 ) 為ニ裂ク、且( カツ ) 戦傷ヲ負ヒ、災禍ヲ蒙リ家業ヲ失ヒタル者ノ厚生ニ至リテハ、朕ノ深ク軫念 ( シンネン、天子が心を痛める ) スル所ナリ。

惟( オモ )フニ今後帝国ノ受クヘキ苦難ハ固 ( モト ) ヨリ尋常ニアラス、爾 ( ナンジ )臣民ノ衷情 ( チュウジョウ、うそ偽りの無い心 ) モ朕善 ( ヨ ) ク之 ( コレ ) ヲ知ル。

然 ( シカ ) レトモ朕ハ時運ノ趨 ( オモム ) ク所、堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ、以テ万世 ( バンセイ、永久に続く ) ノ為ニ太平 ( タイヘイ、世の中が安定し、平和であること )ヲ開カムト欲ス。

朕ハ茲 ( ココ ) ニ国体ヲ護持シ得テ、忠良ナル爾 ( ナンジ ) 臣民ノ赤誠 ( セキセイ、まごころ ) ニ信倚 ( シンイ、信じ頼る ) シ、常ニ爾臣民ト共ニ在リ。

若 ( モ ) シ夫 ( ソ ) レ情ノ激スル所、濫 ( ミダリ ) ニ事端 ( ジタン、事が起こる ) ヲ滋 ( シゲ、盛んに ) クシ、或 ( アルイ ) ハ同胞排擠 ( ハイセイ、人を押しのける )、互 ( タガイ ) ニ時局ヲ乱 ( ミダ ) リ、為ニ大道 ( ダイドウ、人の守るべき正しい道 ) ヲ誤リ、信義ヲ世界ニ失ウカ如 ( ゴト ) キハ、朕 ( チン ) 最モ之 ( コレ ) ヲ戒ム。

宜シク挙国一家、子孫相伝 ( アイツタ ) ヘ、確 ( カタ ) ク神州 ( シンシュウ、神の国 ) ノ不滅ヲ信シ、任重 ( ニンオモ、責任重く ) クシテ道遠キヲ念 ( オモ ) ヒ、総力ヲ将来ノ建設ニ傾ケ、道義ヲ篤 ( アツ ) クシ志操ヲ鞏 ( カタ ) クシテ、誓 ( チカッ ) テ国体ノ精華 ( セイカ、最も優れているところ ) ヲ発揚シ、世界ノ進運 ( シンウン、進歩 ) ニ遅レサラムコトヲ期スヘシ。

爾 ( ナンジ ) 臣民其 ( ソ ) レ克 ( ヨ ) ク朕カ ( が ) 意ヲ体 ( タイ ) セヨ。

御名御璽 ( ギョメイギョジ、天皇の署名と天皇の印鑑 )
昭和 20 年 8 月 14 日
各大臣副署

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