エンバーミングの詳細

エンバーミングの定義

遺体に対し防腐性薬品もしくは消毒液を注入または外部塗布して 遺体の消毒あるいは保存を行い、あるいは病気等により容貌の変容した、もしくは事故等により破損 ・ 切断された遺体の復元のため、皮膚 ・ 形成処置をすること ( 日本遺体衛生保全協会 )。
と定義される処置で、日本語では「 遺体衛生保全 」といわれています。簡単に表現すれば遺体に対して消毒、防腐、化粧などの処置を施すことです。
日本では馴染みのない処置ですが、米国や カナダでは約 90 %、ヨーロッパでも英国、北欧では約 70 %、フランスでは 30 %、アジアでもシンガポールでは約 70 %で、 日本では僅か 1.24 % にしか過ぎません。

しかし航空機を利用して遺体を海外から、あるいは海外へ輸送する場合には、航空会社や発送 ・ 受け入れ国から防腐処置証明書と、非感染遺体証明書の添付が要求されるので、 遺体に エンバーミング処置の実施が 義務付けられます

  1. 脱衣、衣服を脱がせ、包帯等を取り除く。全身を確認し外傷がないか、内出血等の損傷部位がないか調べる。

  2. 消毒、全身を スプレー ( イソプロパノール アルコール 68 %、 ホルムアルデヒド 1.4 % 配合 ) で殺菌する。

  3. 洗浄、全身を洗浄し、洗髪する。

  4. 口腔等の殺菌、鼻腔、口腔を スプレーで殺菌する。

  5. ひげ剃り、依頼に応じて口ひげ、顎ひげを剃る。

  6. 口、目の処置、口を ( 開かないように )縫合し、閉じて形を整える。目に アイキャップ ( 瞼が開かないように ) を挿入し、形を整える。

  7. 動脈、静脈の剖出と注入管・排出管の連結、皮膚を小切開して体表の近く、浅部を走行する動脈と同部位の静脈を剖出する。動脈に エンバーミング ・ マシーンに繋がれた注入管を繋ぎ、静脈に排出管を繋ぐ。

  8. 防腐前液の注入と血液の排出 、「 防腐前液 」 を加圧や流量を調節しながら血管内に注入し、血管内部を清浄にし、次ぎに入れる防腐液を体内の隅々まで行き渡らせ、静脈から全身の血液を排出する。

  9. 防腐液の注入、静脈を閉じ動脈から注意深く防腐液を、マッサージしながら全身に行き渡らせるように注入する。こぼ防腐液は メチルアルコール ( 95 % )、ポリエチレングリコール、フェノール、ホルマリン ( 100 % )、水から成り、 アルコールには防腐、脱水、浸透作用が、ポリエチレングリコールには殺菌、防腐、凝固、漂白作用が、ホルマリンには凝固、防腐、脱水の作用がある。
    防腐液は遺体に応じて香料、調整剤、染料が調合されて使用される。ここで加えられた 色素 が遺体の表情に生前と同様な 自然な赤み を与える 。

  10. 体腔への防腐液の注入、胸部や腹部の臓器は防腐液が入らず固定が不安定なことがある。そのため必要に応じて胸腔、腹腔、腸管の内腔に トロッカー ( Trocar、ドレン パイプ ) を刺し入れて胸部、腹部の内容物を排出し、代わりに防腐液を注入する。

  11. 切開部の縫合、切開部を乾燥させ、縫合する。

  12. 全身の洗浄、防腐液の漏出の有無等を確認し、全身を トリクロサン配合の薬剤で改めて洗浄する。

  13. 化粧台へ移動、遺体を化粧台へ移動する。

  14. 修復、損傷部を縫合し、ワックスを塗布する。

  15. 着衣、化粧、遺族が希望する服を着せ、化粧を施す。

以上は、 川崎医大名誉教授池田章氏の「 遺体衛生保全処置の基準 」から引用



エンバーミングを始める時期

「 死後なるべく早い時期に、遅くとも 48 時間以内にすることが望ましいと 」 いわれています。その理由は腐敗が進行した場合、腐敗したものを元に戻すことができないからです。

どの程度有効か

普通では 1 週間ないし 10 日程度の遺体保全に有効とされますが、方法によっては 2 週間以上になることもあります。

日本で普及しない理由

エンバーミングが日本で普及しない理由についてよく言われることは、欧米が殆ど土葬であるのに対して日本では火葬が主だからというのだがありますが、それは正しくないと思います。火葬でも死後は最低 24 時間の経過を法律で必要とし、多くの場合は 2 日 ( 48 時間)〜 3 日 ( 72 時間 )経過し、夏季では体内の腐敗がかなり進行し、遺族が公衆衛生的危険に晒されます。

日本では死後慌ただしく火葬を行うのは遺体の保全に問題があり、腐敗の進行 ( 腐敗臭、皮膚の変化 ) を恐れるからなのです。米国のように エンバーミングが 一般化されれば、死後に慌てて葬儀をすることもなく、十分余裕を持って葬儀の期日設定が可能になります。日本では エンバーミングについて知る人が少なく、従ってする人も少ない。しかも施設が少なく、エンバーマーの数も少なく、例え希望しても葬儀社が遺族の要望に対応できないのが現状です。

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