MORI GATARI
源氏物語 エッセイ WORK 新刊案内

  ・幻・  
  年が明け、源氏も52歳になりました。
例年通り年賀の客が大勢きますが、紫の上の死以来、すっかり自分の世界に閉じこもるようになった
源氏には、そんな賑わいも遠い世界のことのようです。
どうにもこうにも心が後ろ向きの源氏は、女房(<にょうぼう>=高級侍女)たちと亡きの思い出話をして日々を送ります。
女房の口から、今までの浮気の数々の折のの苦しみ哀しみを聞かせられると、「どうしてあの人を傷つけるような事をしてしまったのだろう…」と今更ながらに悔やまれます。
客とも滅多に対面せず、息子の夕霧とさえ、御簾(<みす>=すだれ)超しの対面しかしない源氏ですが、孫の三の宮(=匂宮、6歳)には心慰められることもあります。
「おばあさまが、おっしゃったから」
と言って、が梅や桜を大切にしているのを見ると、哀れを誘われる源氏です。
「わあっ。ボクの桜が咲いたよ。うーん、どうしたら散らさずにおけるかなぁ。…そうだ!周りに几帳<きちょう>を立てたら、風も吹かないね!」
と得意そうに言う三の宮を見て、源氏は微笑まれます。
「……もうすぐさまともお目にかかれなくなりますね…」
と言うと、は、
「…おばあさまと同じような事をおっしゃる。エンギが悪いや……」
と言って伏目がちにモジモジと衣の紐などをひっぱったりしています。きっと涙を紛らわしているのでしょう。
ヒマなので、六条院の女君めぐりなどもしてみますが、女三の宮<おんなさんのみや>には源氏を慰めようなんて気持ちはサラサラなく、がっくり。
明石の御方<あかしのおんかた>のところに行って、しみじみ度を挽回しても、さりとてそちらで一晩過ごすという気にはならないという枯れたあり様。
寝ても覚めても紫の上のことから離れられません。
が亡くなってから1年が経ち、源氏はそろそろ出家をしようとその準備などを始めました。
からもらった手紙の数々を女房たちに破かせるのにも、涙はとめどなく流れます。
年末の仏名<ぶつみょう>には、久々に人前に姿を現した源氏です。
その姿は昔よりも更に一層光が添い、すがすがしくも清らかだったと言います。
やがて源氏は髪を下ろして、山にこもり、紫の上の菩提を弔って余生を送ることになるでしょう………。

第二部・及び正編、
 
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