MORI GATARI
源氏物語 エッセイ WORK 新刊案内

  ・横笛・  
  柏木が死んで、早1年が経ちました。
柏木女三の宮<おんなさんのみや>の不義の子・も、よちよち歩きの可愛い盛りになりました。さすがの源氏も罪のないこの子供の事はいとおしいようです。
一方、夕霧くんは、相変わらず一条の落葉の宮のもとへマメマメしく見舞いに通っていました。
秋になり、もの憐れな夕暮れに、と合奏したりなんかして、結構いい雰囲気です。その時に夕霧柏木の遺品の名笛<めいてき>を贈られました。
夜ふけて自宅の三条邸に帰ると、あたりは子供やら女房(<にょうぼう>=高級侍女)やらがゴロゴロ寝ています。
はあ。ウチはどうしてこう所帯じみているのかねえ。
一条の落葉の宮の儚げにあわれな様子とは、何たる違いか。
月に誘われて、先ほどの笛を吹く夕霧。やがてまどろんだ夢の中に、何とあの柏木くんが現れました。
「実はこの笛は伝えたい人があったのだよ…」
「えっ、誰に……」おぎゃーーーーっっ!!
がば。
夢から覚めると、赤ん坊が大声でギャンギャン泣きわめいてます。
奥さんの雲居雁<くもいのかり>も乳母<めのと>も起き出して大騒ぎ。
「あ、あなたがいけないのよっ。浮ついてイイ気になって、夜に格子<こうし>を上げたりするから。だから物の怪が入ってきたんじゃないの!」
ぎゃんぎゃん嫌味を言う雲居雁ちゃんは、落葉の宮の事をもう勘付いているんですね。単なる同情心だけで見舞っているんじゃないって。
「まあまあ、浮気はオトコの甲斐性♪」って、そんな論理は、今まで唯一の恋人、唯一の奥さんとして愛情に慣れてきたこの人には通じません。
やれやれ。
それにしても、ヤな笛だなあ。きっとこれにひかれて出てきたんだ。
伝えたい人ってのは、あれかな。…もしかして、の事かな。やっぱ…。
柏木の遺言などから、出生の秘密をそれとなく察している夕霧くんは考えます。
そうだ、ちょうどいい、この折に父君に彼の遺言を伝えて、ついでにサグリを入れてみよう…。
笛の供養をした後、それを持って夕霧くんは六条院へ行ってみました。
落葉の宮から贈られた柏木の笛の事、その夜枕もとに立った彼の事などを源氏に言いますと、案の定源氏は、
「それは実はこちらで預かるべき笛なのだ。これこれの由緒でね…」
とわかったようなわかんないような縁を持ち出してきます。
源氏も『そうか、きっと柏木に伝えたいと思って、夕霧の夢枕に立ったのだな』と察してそう言っているのです。
夕霧は『今だっ』、と思って、例の遺言を伝えることにしました。
「実は、亡き人から父上にお詫びをしてくれ、と頼まれていたのですが…」
源氏は、『ム。こいつ、知っているな……』と心中密かに思います。
しかしあからさまに言うべき話でもないので、
「そうか。心当たりがないな。ま、その話は今度またゆっくり……」
などとかわします。
ああ、男同士の会話って、駆け引きに満ちていてメンドくさい…。(^_^;)
結局うやむやなまま引き下がった夕霧くんでした。
うーん。年の功で源氏パパの勝ちっ!
 
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