MORI GATARI
源氏物語 エッセイ WORK 新刊案内

  ・朝顔・  
  源氏が昔っから言い寄っている人に、朝顔の姫君、というイトコがいました。
彼女は式部卿宮<しきぶきょうのみや>の娘です。宮家の姫♪ですね。
しかも「式部卿」ってのは、親王がつく役職の中でも、格が高いんです。
ちなみに紫の上も、やはりいい役職の「兵部卿宮<ひょうぶきょうのみや>」の姫なんですが、実家と縁が切れてるし、正妻腹ではないので「だから?」って感じです。
話を元に戻して、この朝顔の姫君には、むか〜〜し、源氏がまだ10代だった頃に、朝顔の花につけてラブレターを送ったことがあり、その後も折にふれて文通をしていました。
六条御息所<ろくじょうのみやすどころ>の娘、今の梅壺女御<うめつぼのにょうご>が、朱雀院<すざくいん>の御代に伊勢の斎宮となって下向しましたが、同じ時、この朝顔の姫君は賀茂の斎院となって神に仕えていました。神に仕えてるっつーのに、源氏はここにもラブレター送ったりなんかして、イジワル弘徽殿の怒りを買ったものです。
この朝顔サンは、途中で父・式部卿が亡くなったので、その喪に服すために任を降りてます。…が、その後も「(朝顔の)斎院」と呼ばれ続けます。
朝顔サンは多分源氏とそう年齢が変わらないので、当時としては完全に行き遅れです(源氏は今32歳)。ま、この人の場合、好き好んで独身でいるんですけど。パパ桃園式部卿宮(桃園はお邸のアダ名)も源氏との結婚を望んでいたんですけどね。
さて、藤壺の宮を喪って哀しい源氏は、にわかにこの人にも熱心に言い寄ります。どうもキミは高貴な憧れの対象が欲しいらしいね。
朝顔サン・源氏共通のオバちゃんに女五の宮<おんなごのみや>というバーサンがいまして(桐壺院桃園式部卿宮の兄妹)、朝顔サンはこのバーサンと同居してるので、源氏は「オバさんのお見舞いに行ってくるね!」と紫の上に言い訳をして、せっせと桃園に通います。
…あ、くどきに通ってるだけで、えーー、通い婚しちゃってるわけではありません。
朝顔ちゃんは「え〜〜、今さら〜〜??」と思ってるので、ガンとして受け入れません。…するってーと、燃えちゃうんですね。この男は。余計に。
高貴な姫に足蹴にされる…。あ、ダメだ、弱いんだよ、オレ…。
紫の上にも、そのうちに噂が耳に入ります。
ガーーーン。大、ショック。
朝顔サンは同じ「宮家の姫」とは言っても、実家と絶縁状態で頼る人は源氏以外にはいない紫の上と違って、昔っから世間でも重く扱われている人です。
そんな姫と源氏が結婚、ってことになれば、とーぜん源氏の正妻は朝顔サン、ってことになります。
「しょせん自分より下」、と思っていた明石の君のときにはキイキイ焼きもちをやいていた紫の上ですが、事がこう深刻だと、それどこじゃありません。
源氏がいつも通り「オバさんのお見舞いに行ってくるね!」と言っても、無言で明石の姫君をあやします。
…その横顔にただならぬ気配が感じられます。
あちゃー、バレたかぁ。
「…何か誤解してない?オレがあちこち外出するのは、ほら、あれだよ、あんまりいーっつも一緒にいても新鮮味がないかなっと思ってさ。わざとなんだよ〜〜ん」
ムカッ。
「えーえー、そうでしょうとも、馴れていくと、色々ツライことも多うございますことっ!」
紫の上はそのままつっ伏しちゃいます。うううううっ。
…気にはなりますが、源氏はとりあえず桃園へ出かけます。
と、桃園で源氏に、
「…一体いつになったらアタクシに気づいて下さるのかしらン?」
と言いかけてくる女がいます。
ん?誰だ?
何と、それは昔よりも更に一層ババアぶりに磨きのかかった、源典侍<げんのないしのすけ>でした。
アンタ、まだ生きてたの!?
70のバーサンに迫られても、さすがの源氏も面白くありません。…なんでこんなヤツが長生きなんだ。藤壺の宮はもう儚くなってしまったのに…。
はい、もう、さよーなら!アンタに用はないよ!
さてさて、源氏は今日はいつもより気合が入ってます。
「一言、嫌いだと直におっしゃって下さい。そうすれば諦めます…!」
そう、源氏は今日こそはのお返事を頂こうと思ってやって来たのです!!
『…嫌よ。こんな歳になって、直に声を聞かせるなんて…』
朝顔サンはそう思って、だんまりのまま。
もう、のれんに腕押し、ヌカに釘です。
※「直って何だ?」とお思いになった方のために。えー、この人たちはすべて女房(<にょうぼう>=高級侍女)を通して会話してます。勿論、御簾<みす>越し、几帳<きちょう>越しで、姫の顔は見えません。もっとも、姫の方からは多少は見えます。暗い方から明るい方は見えるのです。夜の車の中と一緒です。
一向に手応えがないので、源氏もこの辺で諦めることにしました。
あーあ。ダメだったか。ちぇ。
…さて、朝顔サンは、源氏が好きだったんでしょうかね。嫌いだったんでしょうかね。うーん、わからん。
一方、紫の上は、まだご機嫌を損ねてます。源氏の前でポロポロと涙をこぼしたりなんかして。
この辺が、他の女人<にょにん>と違って彼女のカワイイとこです。
源氏はそんな彼女の髪をかきあげます。
「馬鹿だね…。何をそんなに気に病んでるの?朝顔の斎院のこと?彼女は単なる文通相手だよ?」
折しも表は美しい雪景色です。月明かりのもと、女の子に庭で雪遊びさせて、二人で眺めることにしました。
つれづれに源氏は色んな女君の話をします。藤壺の宮朝顔の斎院朧月夜尚侍<おぼろづきよのないしのかみ>、明石の君花散里<はなちるさと>…。
「そんな中でもキミが一番さ!」てなわけです。それじゃなきゃ、こうも堂々と他の女の話はしません。紫の上のご機嫌もそれで直りました。
ふう。やれやれ。
やれやれなんですが、その晩源氏の夢枕に、なんと藤壺の宮がお立ちになりました。
「ひどい。ひどいわ。あれほど人には漏らさないと誓ったのに…!」
紫の上に、具体的に「藤壺の宮と関係があった」と言ったわけではありませんが、他の関係があった女と並べて話題にしたのです。…半分言っちまったようなもんです。馬鹿だね、源氏
なんだか今回は失敗ばかりの源氏くんでした…。
冴えないね。あーあ。
 
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