MORI GATARI
源氏物語 エッセイ WORK 新刊案内

  ・薄雲・  
  源氏はとうとう明石の君に例の件を切り出してみました。
「二条の人(=紫の上)がね、姫のことをゆかしがっているんだよ…」
早晩その話が出るであろうと思っていた明石の君は、胸がつぶれる思いです。
姫の将来を思えば、早いうちにそうするのがいい事はわかってます。紫の上の人柄が、素晴らしいであろうという事も…。
でも。でもでも、やっぱり手放したくないよーーー!
が、明石の君もとうとう観念し、12月に入り、姫と別れる日が来ました。
何も知らない姫は、無邪気に車(=牛車)に乗れることを喜んでます。3つになる、そんな可愛い我が子を抱いて、明石の君は車のところまで送ります。
カタコトをやっと話す姫君は、母親の袖をツンツン引いて、「かあさまも、のって?」と問います。
うううううっ。かあさまは、乗れないのよっっ!
さようなら〜〜。
さて、二条院に着いた姫も、最初は母を求めて泣きましたが、すぐに紫の上に懐いてしまいました。…子供なんてそんなもんだ。紫の上も、姫に夢中です。
源氏は姫を取り上げられた後の明石の君が気になって仕方ありません。まめまめしく文も遣わし、自身も大堰<おおい>に通います。
紫の上も、前みたいにヤキモチ焼いたりせずに、この可愛い姫に免じて大目に見てあげることにしました。
そんなこんなで年も明けました。
しばらくして、太政大臣<だいじょうだいじん>が亡くなります。この人はかつての左大臣、源氏のお舅さんで、葵の上頭中将<とうのちゅうじょう>のパパでした。
引き続いて3月、藤壺の宮が病身に陥ります。
源氏はあわててお見舞いに参上します。
最近ではスッカリ執着しなくなっていましたが、やっぱり源氏にとっては永遠のマドンナです。
人目を気にしながらも、涙のこぼれるのを止めることができません。
も心の内に思います。
『わたくしは、内親王として生まれ、女御入内、中宮立后、国母<こくも>となり女院の位を賜った…。人の世の栄華を極めたけれども、心の内で満たされない思いを抱え苦しむことも、 また人一倍だったのだわ…』
の「満たされない思い」とは何だったのでしょう…。源氏?それとも?
さて、二人は人目もある事ゆえ、よそ行きの会話しかできません。
それでも藤壺の宮は、源氏の声を聞きながら、息を引き取ることができたのでした…。
享年37歳。女の厄年でした。
さようなら〜〜。
当然源氏は激しく落ち込み、お堂にこもって泣き暮らしました。
さて、一人残された冷泉帝<れいぜいてい>ですが、追い討ちをかけられるように意外な真実を知らされます。
源氏藤壺との秘事を知っている、数少ない関係者の 一人である坊さんが、冷泉帝に真実を告げてしまったのです。
アンタは桐壺院の子なんかじゃないよ、本当は源氏の大臣<げんじのおとど>の子なんだよ…。
驚天動地の冷泉帝は考えます。
父君を臣下に持つなど、恐れ多いこと…。そうだ、源氏の君に一旦親王にかえってもらって、あらためて帝位についてもらうことはできないだろうか…?
の様子がおかしい、と聞いた源氏もあわててお見舞いに駆けつけます。
はそんな源氏の顔を見るにつけ、『……似てると思ってたんだよな〜。兄弟だから、と思ってたけど、そうじゃなかったんだ。親子だからだったんだ…!』と感慨が胸に押し寄せます。どど〜ん。
は、源氏に例の件を打診してみました。わたしの代わりに帝位についてくれないか…。
「とんでもない!」
源氏は固辞します。源氏を溺愛した桐壺院でさえなし得なかったことです。後ろ盾のない帝などは何の権威も持てないのです。臣下でいるからこそ冷泉帝の後ろ盾になれる源氏なのに、その源氏が帝位についてはどうしようもありません。
…しかし、主上<おかみ>はどうして突然あんな事を…?
もしかして、事の真相に気がついてしまわれたのでは…?
疑念を抱いた源氏は関係者の一人、藤壺の宮の女房(<にょうぼう>=高級侍女)だった王命婦<おうのみょうぶ>に確認しますが、彼女は「そんな筈はない」、と断言します。
……?
じゃあ、なぜ…?
ま、いいや。(おいおい)
ってなわけで(?)、月日は流れ、秋になりました。
冷泉帝に入内<じゅだい>した梅壺女御<うめつぼのにょうご>が、源氏の二条院に里下りしてきました。
彼女は源氏の養女格なのです。
源氏はご挨拶に行きます。
あれこれ世間話をしている間に、急にムラムラと彼女がゆかしくなってきた源氏は、思わず立場も忘れて言い寄ります。
こらこら、アンタは「父親」でショ!
驚いた女御は、シーーーン。そりゃそうだ。
しょうがないので源氏は「ところで、春と秋とどっちが好きですか?」なんてわけのわからんことを言ってお茶を濁します。
「秋が好き」と女御が答えると、それにかこつけてまた言い寄ります。
……しつこい。
困った女御はもう後ずさり。ずりずり。
マズイ、と思った源氏も、この辺で引き上げることにしました。
…ったく、藤壺の宮という憧れを失ったからといって、どうしてそう、手の届かない憧れを求めるのかね、キミは。
先が思いやられるよ!
 
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