MORI GATARI
源氏物語 エッセイ WORK 新刊案内

  ・末摘花・  
  「若紫」と同時進行でしていた恋物語の巻デス。
夕顔を亡くして寂しい源氏は、新しい恋を求めていました。(少しは大人しくしてろ)
そんな時、源氏の乳兄妹の大輔の命婦<たゆうのみょうぶ>という人が耳寄りな情報をもたらします。
彼女は宮中に仕えるキャリアウーマンなので、宮中で源氏と顔を合わすことも多く、Love抜きで仲良くしています。
こんな源氏にも、いちお、いるんですね、女友達が。
さて、「耳寄りな情報」ですが、彼女が実家としているお邸のお姫さんが、両親を亡くして一人寂しく心細い思いをして暮らしている、というのです。
お姫さんのパパというのは常陸の宮<ひたちのみや>、という宮様でした。
同じ落ちぶれるんでも、宮家の姫、というと意味もなく哀れをそそります。高貴な姫が落ちぶれる、というのは、こう、男としてはたまらないシチュエイションですね。(多分…)
頼る方もなく、この世のあわれを嘆きながら寂しく暮らす宮家の姫…。ああ、きっと月の夜には、一人琴をかき鳴らして袖を濡らしておいでに違いない…。はかなげな美女…。たまりまへんワ…。
と、例によって、見てもいないのに勝手に盛り上がった源氏くん、命婦をせっついて、常陸の宮邸の庭先に潜り込み、姫の琴の音を聞くことに成功しました。
琴の音を聞くだけで満足するような源氏ではないのですが、相手はくさっても宮家の姫、さすがにイキナリ襲っちまう、というわけにはいきません。この時代、ラブレターを贈る、というステップをはずしては真っ当な恋ではないのです。
『ま、今日のところは大人しく帰るか』と思って帰ろうとすると、何やら物陰に男がいます。
『げ、ヤバいな、オレ様がこんなとこウロウロしてるのを見られちゃかなわねえ』、と思ってヌキ足サシ足シノビ足で立ち去ろうとすると、何と男が近寄って来るではありませんか。おまけに、
「見ましたゾ〜〜、一緒に退出したと思ったのに、どこへ行ったか源氏くん、コソコソ女に会いに行く♪うひひひひひッ!」
などとぬかします。何と源氏の悪友、頭中将<とうのちゅうじょう>が、鬼の首を取ったように得意がっているのでした。呆れたことに、ご丁寧に狩衣<かりぎぬ>という略装に身をやつして、その辺の従者のフリをするという手のこみようです。一体どこで着替えたんだオマエは!
ここまでされると、源氏ももう笑っちゃいます。
「てめー、いい加減にしろよ、普通、つけてくるか!?オマエ以外、誰もこんな馬鹿なことしねーぞ!(笑)」
全くもって、いいコンビです。二人はそのまま一杯やることにしました。
いいですねー、男のつきあい。源氏は奥さん・葵の上よりも、そのお兄ちゃんの頭中将との方がよっぽど仲がいいのです。
さて、この一件で、どうやら頭中将も常陸の宮の姫に興味を持ってしまいました。ま、源氏への対抗意識が殆でしょうけど。
こうなると、そんなに本気でもなかった源氏も、トンビに油揚げをさらわれるわけにはいきません。せっせと姫に手紙を贈ります。が、姫の方からは、源氏にも頭中将にもなーーんの返事もありません。
頭に来た源氏は「もういいから、姫のところに案内しろ!」と命婦を脅して、とうとう姫と枕を交わすことに成功しました。ヤッホー!
※枕を交わす、これも便利な表現ですね。いくらでもあるんです、この手の言いまわしは。
もっと昔(万葉の頃)だと、単に「枕く(まく)」なんて言ったりしました。「君が手枕(たまくら)まきそめて…」なんて具合に。
…しかし、いざ契ってみると、なんか、ヘン。
何か変な姫だった。
例によって、真っ暗で何も見えなかったなりにも、不穏なものを感じて、源氏はがっかりして帰ります。
家でゴーゴー寝直していると、頭中将がやってきて「あやしーな、何ネボーしてんだよ、おまえ。怪しい、怪しい!」なんて鋭いことをぬかします。
ハ、ハ、ハ…。
期待ハズレではあったものの、一回こっきりでポイというわけにもいきません。…だって宮家の姫だし。
仕方がないので、たまには通ってました。
カワイイ紫の君も引き取ったので、こんなつまんない女のとこに行きたくはないんですけど。…だって宮家の姫だしぃ。
いいですね、身分が高いってのは。軒端荻<のきばのおぎ>とは何という違いでしょう。
さてさて、そんなある雪の日(ちなみに、懸想し始めたのが春、初めて逢ったのが秋です)、朝の光が綺麗なので「一緒に雪景色を見ようよ」かなんか言って、上手く姫君を窓際に誘い出した源氏です。
さー、これでやっと姫の顔を見れる!
ドキドキわくわくの源氏ですが、まさかマジマジと顔を眺めるわけにも行きませんので、横目でチラチラ様子をうかがいます。
すると!?
うっそ…。
これが、人間の顔!?
胴長・短足、青白い肌。ヒドイ馬面。みょーに出っぱったおでこ。高い背。ガリガリの体。しかも、鼻が、鼻が、象みたいに垂れ下がり、…恐ろしいほどに先っぽが真っかっか!
こんな鼻って、ありえるの!?
見ちゃいけねえ、見ちゃいけねえ、これ以上見ちゃいけねえ!
と、心は思うものの、目がいうことを聞いてくれません。こわいもの見たさ、とでも言うんでしょーか。あまりの凄さに、まるで張り付いたようにぴたーっと動いてくれないのです。
恥ずかしげに「うひひ」と笑ったその顔は、気持ち悪いを通り越して、もう気の毒です。
着ているものも、「アンタ、なに!?」というぐらいダサいもの。
源氏はすっかり動転して、テキトーなことを言って逃げ出しちゃいました。
すすす、すごかった……!どうして見ちゃったんだろう!!
なまじな器量なら、いつともなしに忘れて行く、ということもあるでしょうが、ここまで徹底されると、すでに忘れるとか何とかいう問題ではありません。
もう源氏の胸には、あつい人類愛が芽生えてきちゃって、「わかったよ、これもきっと仏のお導き、色恋はヌキにして、俺が面倒見てやるよ」と達観します。
あかいはな、に寄せて、紅花<べにばな>の別名、「末摘花」<すえつむはな>という愛称でこの姫は呼ばれることになるのでした…。
源氏くん、失敗の巻〜〜。
ちゃん、ちゃん。
 
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