MORI GATARI
源氏物語 エッセイ WORK 新刊案内

  ・夕顔・  
  えー、源氏には浮気所がいくつかあるのですが、その中でも一番重要なのが、六条御息所<ろくじょうのみやすどころ>、という女性の所です。
何故重要なのかというと、まあ、この後の展開もあるんですけど 、身分が高いのです。
「御息所」というのは、皇子や皇女を産んだ人のことなのですが、彼女は元東宮妃(<とうぐうひ>=皇太子妃)で、一女をもうけているのです。その東宮ってのは桐壺<きりつぼてい>の弟なのですが、若くしてさっさとおっ死んじまいます。
あわれ、「末は皇后・中宮か」と未来を嘱望されていた彼女は、忘れ形見の娘を連れて、実家の六条邸へと出戻りです。おまけにパパの大臣も死んじゃってます。
未亡人となった六条御息所でしたが、幸い暮らしには困んなかったので、花鳥風月を愛でて面白おかしく暮らします。当代一の趣味人として名を馳せ、六条邸は都のサロン的存在になります。
そんな彼女にひかれて通い始めた光源氏なのですが、なんせ彼女は7歳年上、おまけに趣味人だから、いつまで経ってもうちとけないカッコつけしいのおつきあい、更に悪いことには超嫉妬深かったりなんかして、既にウンザリしてます。
でてきた途端にウンザリされてるなんて、可哀相な人だ。
でもまー、もうみんなにバレちゃってるし、身分の高い者同士なので、世間体もあります。源氏はいちお、マメマメしく通ってます。
で、今日も今日とて六条邸に行こうとした源氏ですが、途中の五条で、病に臥せっている乳母<めのと>のお見舞いに寄ることにしました。
案内されるまで路駐した車(牛車)の中で待ってると、隣のこ汚い家にキレイな白い花が咲いてます。これが、夕顔の花。
召使に「あれ取って来い」と取りに行かせたところ、こ汚い家からカワイイ女の子がターッと出てきて、召使に扇を差し出します。いわく「これに乗せてさしあげて下さい」。
扇にのった夕顔の花を受け取った源氏がよく見てみると、扇に歌が書いてあります。
「あんた、ひょっとして、アノ光源氏じゃないの?」てな歌です。
ま、どってことはない歌なのですが、肝心なのは、女の方から歌を詠みかけてきたってことです。これは、よっぽどじゃないと、しません。知り合いならともかく、見ず知らずの男に…。要するに、誘ってるんですね。ま、はしたない。
だからと言って、そんな身分の低そうな女の誘いに易々と乗る源氏でもなく、とりあえずは帰ります。だって王子様だしい。
しかーし、やっぱり気になります。
だって、源氏くんってば、さみしいんですもの。奥さんの葵の上は冷たいし、愛人の六条御息所はうっとおしいし、大好きな藤壺女御<ふじつぼのにょうご>は雲の上の人だし、空蝉<うつせみ>はとうとう夫の伊予の介<いよのすけ>が任国に連れて行くっていうし、心を分かち合う相手がだーれもいないんですよ。
てなわけで、例の乳母の息子、つまり乳兄弟の惟光<これみつ>に渡りをつけさせて(隣の家だしさ)、女のもとに通うようになりました。この女のことを、「夕顔」と呼びます。
※こういう場合、大抵まず従者が目当ての家の女房(<にょうぼう>=高級侍女)とねんごろになって、女主人の寝所への手引きさせます。いい仕事ですねー。
いざ逢ってみると、この夕顔、カワイイんですねー、性格が。ちょっと頼りないんですが、そのナヨナヨとしたとこが、また男心をくすぐります。源氏を頼ってるそぶりなんか見せられると、なんせ周りには気の強い女ばっかりな源氏くんには、たまりまへんワーー。
もう、むちゅーになっちゃいました。めろめろ。
夜が待ちきれなくて、昼間もソワソワしちゃいます。会えない夜なんかは苦しいのなんの、大変です。うーーん、若いね!
でも、お互い氏素性を隠して、ヒミツのつきあいをしているので、今イチゆっくりできません。まだ顔もじっくり見てないのです。源氏なんか、ご丁寧に顔にかぶり物をして、馬に乗って来てるんですよ。あやしー。何モンだよ、おまえーー。
そこで考えました、源氏くん。「よし、だーれも知らないとこに連れ出しちゃおう!そこでラブラブしちゃえーー!」
てなわけで、突然、夕顔を連れ出して、某の院<なにがしのいん>、という普段はうち捨てられ、荒れ果てた邸に2人でこもります。
邸はもう草ボーボーで、召使も全然いないので、恐いは不自由だはとんでもないとこなんですが、なんせお坊ちゃん育ちの源氏くんにとっては、逆に新鮮です。殆どキャンプのノリになってます。
なんてったって、カワイイ夕顔と2人っきり♪ですもの、楽しくないわきゃありません。思う存分イチャつけます。
しかーし!そんなラブラブモードも長くは続かなかった!!
2日目の夜(そんなにイチャイチャしてたのか)、源氏の枕元に綺麗な女の人が立って、こう言います。
「ちょっとアンタ、あたしがこーーーんなに待ってるってのに、こんな女にウツツを抜かしてるってのは、一体全体どーいうこと!?うらめしや〜〜っっ!!」
驚いて飛び起きた源氏ですが、よく見てみると、横に寝ていた夕顔が死んじまってます。げげっ!
さー、大変です。なんたって所詮は17歳で苦労知らずのお坊ちゃま、そんなアクシデントに対応できる筈もありません。
女房の右近(夕顔のとこから1人だけ連れてきていた)とひしっと抱き合って、ただオロオロするばかり。こんな時に限っていない、普段はおそば去らずの惟光が駆けつけてくるまでの何と心細くて恐ろしいことか。
あー、もー!早く夜が明けてくれ〜〜。(>_<;)
朝になってやっと惟光が来てくれて、うまく手はずを整えてくれました。よーく考えたら惟光源氏の乳兄弟、トーゼンこっちもまだまだボーヤなのですが、そこはそれ、従者の務め、てなわけで死体の始末を引き受けてくれます。
ひどいことに、夕顔の五条の家には一言も告げずに、勝手に山に持ってって焼いちゃうんです。何故なら、帝の皇子たる光源氏のこんなスキャンダルを表沙汰にはできないから。
だから、五条の家では夕顔がどこに連れて行かれたのかもわからないし、連れ出した相手が光源氏であるという確証もないし、誰にも聞けずに「夕顔が行方不明になった」としか思いようがありません。さー、可哀相なのが夕顔の忘れ形見の女の子(3歳)です。
そうです!実はあどけないフリをしていたくせに(そうか?)、夕顔は子持ちだったのです!…っつってもまだ19歳だったんだけど。
この子の父親はなんとあの頭中将<とうのちゅうじょう>、そう、葵の上のお兄ちゃんで、源氏の親友のあの人です。
「雨夜の品定め」の時に語っていた「逃げられた女」というのは夕顔のことだったのですねー。
逃げられたっていうより、本妻さんのイジメにあったのでやむなく逃げ出したんですけど。本妻のイジメか。うーん、どっかで聞いたような話ですねえ。イジワルな女が多かったんだなぁ。
この辺の事情は、源氏が後に右近から聞いた話です。
さて、二条院(自邸)に戻った源氏は、どっと病に伏せってしまいます(ホントは一度山に夕顔の死体を見に行ってるけど)。ナント20日も寝込んじゃいました。
さて、そんな噂を風の便りに聞いた空蝉、気強く撥ね付けてはいるけれど、ホントは好きな源氏のこと、このまま夫の任国(伊予=愛媛)に下ってしまって「ちくしょー、ほんっと可愛げのない女だったよなっ」と思われてもイヤです。
「病気ってホント?大丈夫?返事とかしてないけど、ほんとはわたし、待ってるのよ。好きだと口にできないわたしの方が、本当は苦しいんだからね…」てな手紙&歌を贈ります。いやあ、女ですねえ。ほほっ。
勿論喜んで返事をする源氏ですが、そー言えば、と思い出して、娘の軒端荻<のきばのおぎ>の方にも歌を贈ります。
なんでかってえと、軒端荻ちゃん、その後めでたく結婚したのですね。ので、そのことを恨む手紙を出してみたりなんかしたわけです。別にホントに恨んじゃいないけど、それが挨拶ってもんなんです。女を見るとナンパするのが礼儀だと思ってるイタリア男みたいなもんです。
でも内心は、「そっか。旦那にオレとの事がバレたら、どーしよ。ま、いっか。だって、オレ様だしぃ!」なんてヒドイことを思ってます。図々しいんだよ!!
そして空蝉はとうとう10月1日に伊予に下ることになりました。源氏はプレゼントをいっぱいしてあげて、ついでに、あの蝉の抜け殻、盗んできた空蝉の小袿<こうちぎ>も返してあげました。
結局この2人は、実際に逢った(契ると同様、逢ったってのも便利な言葉です。「逢瀬」の「逢」ですね)のは、最初の一度だけなんですね。
これ以降も何かとご縁は続きますが、そういうことはありません。精神的な浮気かあ。ダンナとしてはどーなんでしょうね。
…てなとこで、この「夕顔」の巻は終わっちゃうのですが、一つ疑問が残ります。あの夕顔をとり殺した 物の怪(<もののけ>=おバケ)は一体誰だったんだ!?
これは、順当に読んでいけば、「トーゼン六条御息所」と誰もが思うのです。実際、彼女はこの後の巻々で生霊・死霊になって大活躍しますし。
でも、もしかすると某の院に最初っから住んでいた地縛霊かもしんない。本文ではハッキリとは書いてないんですね。
…のでこの辺は意見が分かれるところです。
さてさて、てなわけで、やーーっと見つけた心から愛しいと思える相手もアッサリ失った(というより自分のせいで殺した)源氏くん、またまた寂しい生活に逆戻りデス…。
 
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