ストロベリー



今日発売の週間で出ているマンガ雑誌1冊、スナック菓子を手当たり次第、ジュースは期間限定ものを多めにスタンダードなものも数本合わせて、ハーゲンダッツのアイスクリームは陳列棚の端から端までを各3個ずつ、それから500mlの缶ビール10本に750mlのウイスキー5本。
それらを詰め込んだ荷物は全部で5つに分れ、レジを打ち袋に詰めてくれた店員さんはさぞ大変だったろうなと想像を巡らす。
両手に下げたビニール袋の中身、荷物は嵩張っていてそれなりに重い。



下村さんが先頭で私が続き、軽快な音を立てて階段を昇りとある一室の前で止まる。
下村さんの右手は缶ビールが入った袋で、そうして左手はウイスキーとジュースがある程度の心遣いを以って詰め込まれている袋2つで塞がれている。
私の手には嵩張るけれど軽いものしかない。
重さのあるものばかりを選んで持つ、それはさり気無く行われた事で嫌味などちっとも感じさせず押し付けがましいものでもなかったから素直に受け入れられ、案外紳士なんですねと言ったら、紳士かそりゃいいと笑われた。でもすぐ後に、その言葉を取り消したくなるような行動を塞がれている目の前のドア相手に起こされたのだけれども。
贔屓目に見なくてもすらりとしている足を振り上げ、ガンガンと続けて2回、一呼吸入れてガツンと1回。いくら両手が塞がっているからってそれはどうかなと私は横で笑う。この街に来る前ならば顔を顰めていたかもしれない素行に対して笑えるようになったのは、多分いい加減馴らされてきたからだと思う。
だってこの街のお知り合いの人達はみんな結構粗雑、それはうちのパパも含めての事。

「これくらいやらないとあいつは出ないんだ」

下村さんがひょいと肩を竦めながら言う、私はただ笑う事で了承の意を表した。
あんなに力いっぱい蹴られたというのにドアを挟んだ向こう側では何の動きもないらしく、音もしなければ気配も揺れない。もしかしてまだ眠っているのかなと一人ごちたら、だったら起こせばいいだけさと簡単に言われた。

「安見もやってみるか?」

にやっと笑って唆される、それだけでその気十分になった私は人を粗雑だなんて言えない。
私もにやっと笑い返して足を振り上げ、私なりに力を込めてカンカンと2回蹴った。ジーンズの先にあるミュールじゃ重くズシンとくるような音なんて出やしない。その事が、少しだけ悔しい気がした。
まだ粘る坂井さんに悪態を吐きながら下村さんがまた足を振り上げる。早く両手を塞ぐビニール袋を下ろしたいに違いないと思ったから、どれか一つなら持てますよと声を掛けたら真顔で「女はそんな余計な気遣いするものじゃない」と窘められた。
子供扱いではなく女扱いしてくれるのは嬉しいのだけど、女は男に甘え縋るべき生き物なんだって信じて疑っていないようなその言葉に性差のズレを感じる、それはパパも似たり寄ったりだから然して気にはならないけれど。
そんな事を思いながら私ももう一度足を振り上げ、ドアに向って足を伸ばそうとしたその時ドア向こうの空気が揺れたような気がして慌てて足を揃えた。
私の直感は外れてなくて、向こうから蹴り返した音、それに続いて鍵を開けノブを回す音が聞こえ、

「うるせぇよ、下村」

開かれたドアと剣呑な声、短めの髪からポタポタと落ち続ける水滴、漸く現れた坂井さんはどうやらご機嫌斜め。
あれだけの騒音を発すれば当たり前の事かもしれないと横目でちらりと下村さんの顔を伺う、けれど彼はちっとも悪びれていない。

「だってお前、女を待たせるなんて最低な男がする事じゃないか」

なあ、安見?
下村さんから振られた私はドアを蹴っ飛ばし催促したというほんの少しの後ろめたさを隅に押しやって、そうよ坂井さんと頷いた。
坂井さんの視界には下村さんしか入っていなかったみたいで、慌てた様子で私に目を向けてきた。珍しいというより初めての来訪者に坂井さんは驚いた様で、私は滅多に見れないその顔から目を離さないままにっこり笑って「こんにちわ」と挨拶する。
ちょっとだけ困った様に口元が緩む坂井さんの、そんな不器用っぽい笑い方は結構魅力的かもしれないと、実はこれも今日初めて見れた表情。


始めてお邪魔した坂井さんの部屋は実際には然して広くなく、けれど物が少ないからとても広く見えた。ミュールを揃えて脱いで、それから漸く嵩張る荷物を畳の上に下ろす。そっと掌を見ると、ビニールが容赦なく食い込んでいた個所に規則性のない線状の跡が幾つも付いていて、赤くなっていた。
だから何なのと小さく頭を振り、部屋主に一言断ってからまず冷凍庫の方を開け溶けかかり緩くなっているアイスクリームを今食べる1つだけを除いて後は仕舞い、続けて冷蔵庫の方を開けてジュースと缶ビールを仕舞った。2本のミネラルウォーターが入っているだけだった長方形の箱の中は私と下村さんが買い込んできたものでいっぱいになり、その小さな景観が何故だか無性に嬉しかった。

「安見、こっちきて休めよ」

坂井さんは手招いて私を誘い、それからまるで自分の家のように遠慮なくうつ伏せに寝転がり伸びて買ってきたマンガを開く下村さんの脇腹に緩く蹴りを入れる。
今行きますと返して、さっきより緩くなっているストロベリーのアイスとプラスチックのスプーンを手に二人がぐにゃりと崩れている部屋へと向い私も倣ってだらりとした格好で座る。
私どうして下村さんと一緒にここに来たのだっけ?と今更な事を思いながらストロベリーを一匙掬って口に運ぶ。その些細な疑問は冷たいアイスと一緒に口の中で溶けて嚥下され、咽喉を通って体内に落ちていった。

【Fin】

お酒を飲みながらの商談(?)がまとまって、メイコさんから頂いたSSです♪
わーい、女の子だーvv

ということは、次は私の番なのですね…まだ時間あるわとタカくくってました(笑)。
すいません、頑張って書きます…何書こう…「ホイッスル!」かしら…(<チャレンジ中)。

メイコさん、かわいい話ありがとう♪