躑躅


「若旦那がお呼びです」

自室で謡いの本を広げているところに使いの内弟子が来た。またか。今度は何の用だと内心舌打ちしながら書見を切り上げた。どうせ顔を合わせれば気まずい雰囲気になるのはわかっているのに、どうしてこうして呼びつけるのか。この先の展開に予想がついているのに、それでも呼ばれればその命令に抗うことのできない自分の立場―――あるいは不甲斐なさというものにつくづく嫌気がさす。けれど内心の不満を顔に出すことはできない。

「お呼びですか」

膝をついて部屋の外から声をかけたが、中からは入れとも何の返答もありはしない。これもいつものことなので、咽喉の奥で溜息をかみ殺すと、目を伏せたまま襖を開けた。
部屋の奥で彼は、脇息にもたれるようにしてだらしのない座り方をしていた。自分で呼びつけておきながら、しかも部屋の外から私がかけた声が聞こえているはずなのに、わざとそっぽを向くようにこちらと目を合わせようとはしない。子どもではあるまいにと思うと小言のひとつも口に出したくなるが、それがますます間をこじれさせるのはこれまでの経験でよくわかっている。外ではS流の嫡男としてそれ相応の立ち居振舞いを要求される。この大人げのない対応も、その反動と言えるかもしれない。

「なんだ来たのか」
「お呼びだとうかがったのですが」

彼の吐く息からは甘ったるい日本酒の匂いがした。酔っている。いつものことながら、私は内心、深く溜息をついた。

「また酒を飲んでいるんですか。少し身体を大事にしろと医者に言われたばかりじゃないんですか」
「うるさい。稽古のときには酒は飲んでない。自分ひとりの時間に飲んだところで何かおまえに言われる筋合いがあるか」
「ですから、身体をと……」
「こうるさいことをぬかす。俺がいなくなれば、あいつがS流に戻ってくる。その方がお歴々は嬉しいんだろうさ、病弱で凡庸な跡継ぎよりは」
「またそんなことをおっしゃる。私が心配しているのがわからないんですか」
「おまえが心配しているのは、自分の立場だけだろうが」

返す言葉はなかった。否、何を返したところで、彼に私の言葉が届くことはなかったし、またその疑念がまったくの空事でもない辺りが厄介なところだった。こうして互いに相手を傷つける言葉を交わし、沈鬱な思いだけを抱いて部屋を辞す。このところその繰り返しばかりだったから、自然と私の足も遠のき、それゆえに彼の私への疑いも深くなる。悪循環だとわかってはいるのだ。わかっていたところでどうしようもなく、さりとて私の立場で顔を合わせずに済むわけもなく、こうして気まずい空気の中で会話を交わす。

のしかかる疲労感に思わずこぼれそうになった溜息をすんでのところで噛み殺し、私は平静な顔をつくって彼の顔を見返した。先方は猪口を片手にこちらをじっと見ている。溜息を噛み殺そうが彼の不信感が晴れることはなく、ならば思うさま当てつけるように溜息をついてやればいいだろうにと内心思わないでもない。しかし、そうすることはできない。何故ならば私は付き人で、目の前に座っているのは私が仕えるよう決められたこの流派の跡継ぎなのだから。
いっそ本当に凡庸な技量の主であったのなら良かったのかもしれないと思うこともある。客観的に見て、彼が流派を継ぐのに力量が不十分だとは言えまい。年に似合わず危なげなく堅実に舞う彼ならば、跡をとったところで決して代々のS流の当主の名を辱めるようなことはなかったはずだ。

―――ただ、彼さえいなければ。

私が付き人となるべく命じられた跡継ぎは、晃充といった。長男として跡を取るにふさわしく、幼い頃から芸を叩き込まれてきた男である。待望の長男として生まれ、幼い頃から祖父を初めとする流派の重鎮から厳しく育てられてきただけに、他の途に目もくれることもなく、一心に稽古に励んできた。初舞台も早く、跡継ぎに不安はないとの周囲の言葉も、まんざらお世辞ではなかったはずだ―――たいして年の差のない、次男の器量に人々が目を向け始めるまでは。型を外れることのない堅実なその芸は、闊達で奔放、人目を惹く華やかで自由な才を持つ弟に比べると、いかにも地味だった。やがて人々の賞讃は弟の方へと移りがちになり、その間もただひたすらに稽古を重ねた兄の方は、鬱憤が内に篭もったかのように寡黙となり、かなり以前から酒量が増えていた。彼にとって、弟は目障りな存在であったに違いない。それだけに、弟が「違う世界を見たい」とS流を飛び出していった時には、一度は安堵したに違いなかった。けれどあっさりと流派を捨てた弟を惜しむ声が耳に入るにつけ、目に前にいないだけに逆にその嫉妬はますます根深く神経の中に腰を下ろしてしまったらしい。近頃は、稽古のない日には朝から酒に溺れていると言ってもいいような有様だった。さすがに酒毒が顔に現われるようなことはないが、身近で見ているとその荒れようは顕かだった。

彼が真実凡庸でありさえすれば、きっとここまでねじれることもなかったに違いない。自身が人よりすぐれた器量を持つだけに、いっそう弟の素質を理解してしまった。彼自身が望んでも決して得られることのない華を。自由闊達な性質のままにとうに彼はこの世界を捨てたというのに、彼の影だけはいつまでも兄を縛り付けて離さず、そうして私もその影が落とす暗い陰に蝕まれて苛まれているというわけだった。

最低限の事務的な用件を陰鬱なやり取りの果てに済ませ、部屋に戻ろうとしたところで、雪政に出くわした。道行姿といい、手に持った荷物といい、外出から戻ったことらしい。そして手にしたやけに大きな風呂敷包みからすれば、どこから戻ってきたかはおおかたの推測がつくというものだ。

「またあのぼんのところか。流派を出た御曹司のところになぞ通って何になる」

しかも洗いものまで預かってくるという律儀さである。家を出、嘱望されたこの世界での期待も打ち捨て、まったく畑違いのデザインの世界へと飛び込んでいく……その身軽さを私は憎んだ。生まれが家元でなかったというだけの理由で、日の当たる場所に出る機会を限られた影のような自分にとって、その恵まれた身分も資質も捨てて出て行った春睦という男は、いっそ倣岸な人間だとまで思えた。その憎しみは私の主―――晃充も同じだったろう。否、次男でありながら自分よりも才能があると衆目の一致するところ認められていた弟に対する憎悪は、私よりも激しかったかもしれない。兄弟間にどのような感情が流れているかは私の関知するところではなかったけれど、自分と同じような立場に置かれている男に対しては平静な気分ではいられないことだけは知っている。―――雪政。この男は私にとって不思議な存在だった。実力はあるはずなのに、あくまでも主の後見に徹し、それに不平を見せる様子もなく、家を出て行った主のもとに通い、以前となんら変わりなく尽くし続ける。それはいつかは彼が戻ってくるという確信のもとに下心あって続けていることなのか、それとも単に習い性なのか。無表情に近い恬淡とした立ち居振る舞いは、理解できないだけにますます私の苛立ちを誘った。

彼は無言のまま、すっと私の傍を通り抜けて奥に向かった。私の問いを無視した格好とも言える。ちっと舌打ちをし、私は部屋に戻った。

からりと障子を開けると、緋色に染まった庭が目に入った。秋に木々を赤く染めるのが紅葉だとすれば、春のこの庭の主役は躑躅だった。花の赤にもいろいろある。紅梅に緋寒桜、椿に山茶花、曼珠沙華……しかしこの庭の躑躅はどの花よりも赤かった。桜と異なり、花の季節には既に新緑の葉が十分に出ているというのに、その葉の緑を圧し覆い隠すようにしてこの花は咲く。季節になれば、一面に深紅に染まるこの庭は、訪れた客の嘆声を誘うのに十分な華やかさだった。錦繍という表現があるが、はじめて花紅に染まったこの庭を見たとき、私はその言葉を目の当たりにしたと思った。庭を造った何代か前の当主の派手好み故だろう。人目を惹く色鮮やかな花は、反面、枯れてしまえば色褪せて余計にみすぼらしく見える。その為、花の季節には人の訪れない早暁に枯れた花をひとつひとつ手で摘まねばならず、手のかかることでは紅葉の比ではなかった。秋に赤く染まった葉は地に落ちる前兆であり、美しく染まった木々の葉も、遠目には鮮やかながらその色は渋く沈んだ紅を基調とする。それだけに、わずかに葉の端が枯れ落ちた状態も、それはそれで枯淡の味わいを見せないこともない。しかし、躑躅は違う。今を盛りと咲き誇る花の間に茶色く立ち枯れた花は、いまや明らかに異物であり、無残ですらあった。老いさらばえたもの、先に色褪せたものを排除して、残った花はいよいよ艶やかに咲き募る。血の紅にも似たその花の咲く様は、私の目に傲慢とすら映った。なんて美しいと人の声を誘う花は、日の当たる人の陰に座り続け、決して表に出ることのない自分を嘲笑うかのようで―――だから私はこの花が嫌いだった。

今、私の鬱屈と憎悪を映して、躑躅の花は色鮮やかに咲いていた。その花の色が無性に癇に障り、私はぴしゃりと障子を閉めた。

***
晃充が死んだ。
肝硬変だった。

発見したのは、枯れた躑躅の花を取り除くことを朝の日課としている老人だった。このところ具合が悪いと臥せっているはずの若旦那が、まだろくに家人も起き出していない早朝の庭に倒れているのを見て、動顛した老人は慌てて私を呼びに来た。慌てて駆けつけたものの、彼は既に事切れていた。なぜ彼が草履もはかず裸足のまま、夜が明けてまもない頃の庭に出たのかは、誰にもわからなかった。一部始終を見ていたのは、ただ躑躅の花だけだったからだ。
彼がそこにいた理由はわからなかったが、死因自体は明白だった。家人には隠していたようだが、酒は相当に彼の身体を蝕んでいたらしい。かかりつけの主治医が溜息をつくようにして「お酒は控えて下さいとだいぶん申し上げたんですがね」と言っていたのは、暗に向けられる人々の非難に対する言い訳のようにも聞こえた。
突然の死に、慌しく葬儀の準備が進められた。S流の跡継ぎの死ともなれば、内々に簡素に済ますというわけにもいかず、通知や斎場の手配などで、ろくに眠ることもできないほどに私たちは多忙を極めた。ようやくのことで葬儀を済ませ、焼き場から戻ってきたところだった。本来なら精進落としの席で接客に務めなければならないはずだったが、あまりに私の顔色が悪かったせいか、家元におまえはもう戻れと言われた。そういうわけにもと言うと「そんな体調で、来客の前で倒れられる方がよほど迷惑だ」と叱責に近い言葉を受けた。なるほど焼き場の厠の鏡で見れば、棺の中で死化粧をほどこされた晃充とどちらが死体なのかわからないような顔をしていた。そう思った瞬間、忙しさに張り詰めていた私の中の何かが折れた。ふいに疲労が肩にのしかかってきたようで、洗面台についた手を引き剥がして手を洗うことすらがひどく大儀に感じられた。
 
目の奥にこびりついた頭痛に溜息をつきながら厠を出ると、ちょうど雪政が空いた銚子を乗せた盆を持って向こうから歩いてくるところだった。私が席を外した分、彼の負担は増えているかもしれない。そのことを済まなく思うよりも前に、ささくれだった私の心は、彼を傷つける言葉を吐かないではいられなかった。いつもと変わりない恬淡とした顔の下に、この弔事――晃充の死――を喜ぶ気持ちがあるに違いないと思った。否、そう思いたかった。常にはかわされてきたが、今ならば、きっと。その思いに衝かれ、軽く頭を下げて私の前を通り過ぎた彼の背に向かって、私は刺のある言葉を投げた。

「これでおまえの大事なぼんがこの流派に戻ってこざるを得なくなる。さぞや嬉しいだろうな、おまえは」

何でもいい、どんな汚い言葉でも。この男が振り返り、私にあからさまな軽蔑の眼差しをぶつければいいと、ただそのことだけを考えていた。目の前の、常に動じないこの男の中にも、私と同じ醜い感情があるのだと確かめることさえできれば、きっと私は安心できるのだった。

「出て行った主に尽くし続けた甲斐があったというものだな。おまえは先見の明があった。賢いおまえにあやかりたいくらいだよ」

反応のないのに焦れてさらに言葉をついだ私に、雪政は足を止め、ゆっくりと振り返った。常ならば、そこで立ち止まるような男ではない。私が何を言おうと、何事もなかったかのように歩いていくだけだった。それだけに、期待が高まる。私と彼の間には、手を伸ばせば触れられる程度の距離しかなかった。彼の手が塞がってさえいなければ、殴られてもおかしくないような私の態度だった。いっそ殴ってくれればいいのに――ますます激しくなる頭痛の中で、私はただそのことだけを願っていた。雪政も自分と変わらないのだと、そのことを確かめられさえすれば――殴られる肉体的な苦痛よりも、この醜い嫉妬から早く解放されたかった。

こちらに向き直った雪政の口がゆっくりと開く―――早く、早く罵倒して欲しい。

「疲れているんだ。少し休んだ方がいい」

彼の言葉は、私の待ち望んだものではなかった。否、むしろその百八十度反対のものだといっていい。呆然と立ち尽くすだけの私を見返す雪政の目には、私の期待した感情は何も映っていなかった。いまや自分よりも下の存在となった私への憐憫も、声を荒げて汚い言葉をぶつける私への苛立ちも、嘲笑も、軽蔑も、彼が持っているだろうと私が期待した負の感情は、何ひとつ。いつもと変わりない穏やかな目で、
ただ私の目を見ているだけだった。

「早く、休め」

ぽんと私の肩を叩いて、雪政はすっときびすを返した。まるで私がぶつけた汚い言葉など、何もなかったかのように。彼の背中を目で追った。姿勢のよい背。その背中からは、なんの感情も読み取れなかった。―――いつもと同じだった。長い間、私が複雑な感情を抱きながら見つめてきた背。そこにはどんな感情も現われてはいなかった。やっとそのことに私は気がついた。

この男は、私の存在など歯牙にもかけていなかった。私が彼に見ていたものは、ただ私が抱く劣等感や鬱屈の反映に過ぎない。いわば、彼は私の負の感情の鏡に過ぎなかったのだ。うすうすと気づいていたけれど、今まで認めたくなかったこと。どんなひどい罵詈雑言をぶつけられたとしても、これほどまでに私を打ちのめしはしなかっただろう。醜いけれど最後の私の支えだった矜持すらもへし折ったのは、雪政の誠実さだった。強い眩暈を覚え、私はその場に崩れ落ちた。

通りがかった相弟子の一人に助け起こされ、私はやっとのことでタクシーに乗った。住所を告げ、シートに深く身を沈めて目を閉じる。後頭部から引きずり落とされるような強い睡魔。酒などもう何日も口にしてはいなかったけれど、そのだるさは酒がもたらす酩酊感と似ていなくもなかった。ここで眠り込んでしまえば、二度と起き上がれなくなるような恐怖に襲われ、気力を振り絞るようにして目を開く。見知らぬ町並みが背後に流れていくのをぼんやりと見ながら、取り止めのない思考に溺れる。あの家を―――S流を出ようかという考えが出てきたのも、そんな脈絡のない思考の渦の中からだった。S流以外の世界を知らない自分に、今更何が出来るのかとも思う。けれど、雪政への反感が自分自身のねじくれた心の表れに過ぎなかったことに気づいた今、もはや自分の裡に残るのは感情の残滓でしかなく、これ以上あの男の顔を見ながら稽古に励むことができるとは思えなかった。晃充を死に至るまで追い詰め、酒というかたちで蝕み続けたのが結局弟への嫉妬と懼れであったのと同様、私は雪政への反感と憎悪に溺れてこの身を捻じ曲げたのだ。今にして思えば、似合いの主従だったのだと言えなくもない。―――もし生前の彼と私が、裡に抱える弱さを互いに口にすることができる人間であったならば。あるいはまた違った結末が得られたのかもしれない。

眩暈にも似た疲労感の中、金を払ってタクシーを降りると、私は足をひきずるようにして家の中へと入った。内の人間のすべてが葬儀に出てしまった今、急に跡継ぎを失ったこの家にいるのは自分一人だけだった。誰かしらの人の気配の絶えないこの家で、こんなふうにがらんとした空虚さを覚えるのは珍しい。もしかしたら空虚なのは家ではなく自分自身なのかもしれないが、それは自分ではわからない。
部屋にたどり着いたものの、喪服を着替えるだけの気力もなく、足を投げ出すかのようにして座り込んだ。葬儀までは忙しさにまぎれていたものの、こうしてさしあたってやることもなくなってしまえば、記憶は否応なくあの日の朝へと遡る。
知らせを受けて駆けつけた私の目に映った彼は、届かない頭上の花に手を伸ばすようにして倒れていた。いまさら医者を呼んだところで、絶命して時間が経っていることは明らかだった。不思議と周囲の騒音は耳には入らなかった。まるで無声映画のようだった。覚えているのは土に汚れた彼の足の裏と、目の前で右往左往する人間たちをも知らぬげに咲く花の紅。真っ先に動くべき私がぼんやりと彼を見下ろしているだけなので、誰かが業を煮やしたように私の肩をゆすぶった。それでやっと我に返った。とにかく若旦那を中へ。誰か医者を。そんな声を聴きながら、私はただ、ついに来るべき時が来たのだと思うばかりだった。
最後に彼が目にしたものは、あの躑躅の花だったのは間違いない。緋に染まった庭で倒れた晃充は、その死にいたってはじめて、彼が生前望んでも得られなかった華やかな舞台を得たのだろうか。それとも、彼の目に色鮮やかな深紅の花は、自分を嘲笑するように見えただろうか。今更そんなことを知ったところでどうしようもなかったが、ただ私は彼の最後を知りたかった。私に手向けられる香華などを、彼が喜ぶとは思えなかったが、身内を除けば、誰よりも長い間彼を見てきたのは私だったのだから、それは私に課せられた責任だと思えた。

あの人が最期に見た花。憎しみにも似た思いを抱き続けた花だったが、そこから目をそむけるわけにもいかず、私は窓へと歩み寄った。
からりと障子をあけた瞬間、一陣の風が吹き抜けた―――のだろう。窓のうちにいた私にはただ、花がざわめくのが見えただけだった。その花の揺れが私には、花が笑ったかのように思われた。

それはまるで、己の心に負けた者を嘲笑うかのようだった。

結局、私も晃充も、自分の中に巣食う劣等感に苛まれて相手を憎んだに過ぎない。雪政も春睦も私たちに何ら負の感情など抱いてはいなかったのだ―――あるいはそんな感情を抱くような対象ですらなかったのかもしれない。ただ自分の心のうちで惑う私たちの愚かさを、花は遥か高みから見下ろして笑っている。

あの人も、躑躅の花が嘲笑う声を聴いただろうか。

唇を強く噛みすぎたのか、血の味がした。それをぬぐうこともせず、ただ私は呆然と立ち尽くしていた。
私の目に映る躑躅の花は、今日も色鮮やかに咲き誇っていた。

【Fin】
2004/04/05


西村たくみ様からのキリリクは赤江瀑で『禽獣の門』『阿修羅花伝』。

発端は、西村さんのサイトでのアンケートの回答に
「春睦に雪政がついてるように、晃充にだって付き人がいたと思う。
でも、だとしたらその付き人は雪政に複雑な感情を抱いてるだろう」
と私が回答したこと。

この回答がツボに来たらしく、「それで一本書いてください」と言われ、
「じゃあキリ番踏んだらそれでリクエストしてください」と答えた私。
……それで逃げたつもりだったんですよ、
まさかその次のキリ番のときにきっちり「踏みました」と証拠画像付でメールが来るなんて
……さすがです部長(敗北)。

というわけで、上で延々暗く語っている人は、原作にはいません。
だから名無し。
あの、雪政への彼の暗い情念を書けばよかったんですよね、
私お題を履き違えてはいませんよね………?

根が暗いのか、こういう暗い文章は書きやすいです。
友人の妹に「おねえちゃんの友達って漢字好きな人?」と言われた私の面目躍如。
しかしなーんかおかしいなあと首を捻りながら書いていて最近気づいたこと。

「この人たち、標準語で喋ってる……」

しかし一人称が標準語なだけに、いまさら友達に台詞だけ関西弁添削してもらうわけにもいかず。
そのままにしてみました……
パラレルだからきっとS流も東京にあるんです。多分。

そして壁紙がツツジじゃなくて桃じゃ!とかいうことはつっこまないでください。
ツツジの壁紙ってなくて……。