| ■瀬川 ことび (せがわ ことび) |
| 『お葬式』 角川ホラー文庫 (1999年12月刊) |
| 今日、おとうさんが死んだ。 死んだときに泣けて、ちょっとほっとしている。おとうさんは仕事ばかりしていて、家庭をほとんど顧みない人だった。たぶん医者や看護婦といったギャラリーがいたせいだろう。兄貴もおかあさんも泣いてて、きっとおとうさんも喜んでいるだろう。結果オーライ。 これから葬式だなんだと忙しいと思っていたら、おかあさんは葬儀屋を追い返してしまった。「うちには先祖伝来の弔い方がございます」…なにそれ。うちってそんなに由緒正しい家系だったっけ。だいたい親戚なんてほとんど知らないよ−−−と思っていたら、顔も知らない親戚たちがどっと押しかけてきて、家は戦場のようになった。なんなのこの人たち。そういやおとうさんとおかあさんて、遠い親戚同士なんだっけ−−−。 第6回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作。 ちょっと醒めた高校生の女の子の一人称ですすんでいくこの短編は「青春ホラー小説」らしい。…なんか「青春」と「ホラー」って語感的に合わないよなと思うのは私だけだろうか。それにしても、テーマとしては結構よくあるものだと思うけれど(葬式に見知らぬ人々が集まるというのは、笙野頼子の『二百回忌』なども同じモチーフだし。<こちらはもっとはっきり、生者と死者が混在しているが)、この短編がよくできているのは、語り口だと思う。いくらでもおどろおどろしく見せられる(また見せがちな)ところを、敢えて軽くまとめているのが面白い。 たまたま私はこの本を持って、親戚の家に行った。酒を飲みながら他の人の顔を見つつ「でもやっぱりあんな葬式は願い下げだわ…」と思った私を許してください。>親戚の皆様 しかし、なんといってもこの本の中で私が秀逸だと思うのは、「十二月のゾンビ」だ。 直人は最近、無言電話に悩まされている。その晩も留守録には3件のメッセージのない録音が残されていた。それを確認したあとでコンビニの鍋うどんの侘しい夕食を食べようとしていると、チャイムが鳴った。部屋の外にいるのは、同じ本屋でバイトしている田嶋さんという女の子。下の名前は知らない。その程度の間柄だ。「ちょっと怪我してて−−−この近くを歩いていて、車と接触しちゃって」慌ててドアを開けると、コートも手も血まみれ。救急車って何番だっけと慌てる直人に、田嶋さんは「急がなくていいから。痛くないし」と言う。「たぶん、わたし、もう死んでるんだと思う」−−−。 シチュエーションコメディとしても十分に笑える一編。…かなりブラックだけど。 最初に「死んでる」と言われて騒ぐ機会を逸してしまったために、自分のことを好きな女の子のゾンビと一晩を過ごす派目になってしまった大学生の困惑は、かなり笑える。どうしていいかわからず、つい緑茶を出してしまったり。…ゾンビに温かいものは良くないと思うの。私は(幸い)ゾンビが部屋にやってきたことはないですが。 目が覚めて、窓際で外を眺めている女の子がいるのを見ると、なんだか同棲してるみたいで悪くないなぁなどと思いながらも、 「小さな石鹸カタカタ鳴るどころか、赤黒い眼球ぶらぶら揺れるこの状況は」 (…『暗黒神田川』…) などと思ってしまう彼のセンスはかなり好きだ。 また、この田嶋さんという女の子がなかなかサバサバしていて、潔くてよいのだ。多分、生きていたら一見地味なんだけど、話してみたら面白い女の子だったんだろうなという感じで。…ゾンビだけど。 その他にもこの道十年のホテルマンの鑑・山本先輩がかっこいい「ホテルエクセレントの怪談」、浮気した恋人の死体を捨てに来た男が山中で迷い込む不思議な尼寺「萩の寺」、とりたてて怖いところはないのだけれど、どこかラストの風景が終末を思わせる「心地よくざわめくところ」と、どれもまとまっている。ネタはブラックだけれど、「あまり怖い話は得意じゃないの」という人でもだいじょうぶ。…ホテルにお勤めの人はどうかわからないけど。手軽に読める一冊です。おすすめ。 |