| ■井田 真木子 (いだ まきこ) |
| 『もうひとつの青春 同性愛者たち』 文春文庫 |
| 東京都府中青年の家利用拒否訴訟。「動くゲイとレズビアンの会(通称アカー)」という同性愛者たちの団体が、勉強会を開くにあたって利用しようとした府中青年の家から差別的な取り扱いを受けたことに端を発する裁判である。これはニュースで「アカー」という存在を知った女性ノンフィクションライターが、一人の人間としての彼らを知りたいと同行し、書き上げたルポルタージュだ。当初は同性愛者特有の病気と言われていたエイズをキーワードに、この国に溢れる「同性愛者たちを特異視する風潮」について描いたノンフィクション。 −−−多分、こんなサイトでこんな本紹介しようと思うのは私くらいでしょうが。 一応法学部に籍を置いていた頃、なにかの判例を調べたときに法律雑誌の同じ頁にこの裁判の判決が掲載されていた。無味乾燥な判決文に書かれた原告X1、X2…そう、法律雑誌お決まりの記号で表された彼ら。裁判について聞いたことくらいはあったから、ぱらぱらと斜め読みした。けれど、そこに載せられているのはごくごく当たり前の結論だとしか思えなかったから、私は必要な頁だけをコピーし、また雑誌を棚に戻した。―――けれど、その「当たり前の結論」が「当たり前」だと思われないこの国の風潮を、この本は痛烈に描き出す。裁判の記録からは現れてこない、当事者たちの肉声。 自ら「堅苦しいまでの異性愛者」と言う著者は、『プロレス少女伝説』(買ったけどまだ未読)で大宅壮一ノンフィクション賞をとったというルポライター。ただ彼らについて書きたいと飛び込んでいった、けれど同性愛者という存在について何もわからない−−−そんな彼女が目にするベルリンでの国際エイズ会議や訴訟の実態。一番私がこたえたのは、ロサンゼルスのゲイ・パレードに同行したときの話だ。ウィルヒナという女性と彼女のやりとり、そしてそこにもある階級差別。 興味半分でこの本を手に取った私を打ちのめしたのは、この本に描かれた彼らが、まだ二十代の半ばを過ぎた辺りの年齢だったことだ。彼らとほぼ同じ年齢に至ってもこれほど真摯にものを考えたことなどない私には、これ以上の感想を語ることができないのだけれど。 「非凡で多難な人生を選ばざるをえなかった、平凡な七人の同性愛者と、その多くの友人にこの本を捧げます」 冒頭に掲げられたこの献辞はとても好きだ。 最近、同じ著者の『ルポ14歳 消える少女たち』(講談社文庫、2002年2月刊)という本を買った。その本の解説で、著者が2001年の3月に亡くなったことを知った。この人の書く硬質な文章は結構好きだったので、それを知って残念に思う。 ■関連書籍■ セクシュアリティに関連して、いくつか面白かった本を。 『男でもなく女でもなく 本当の私らしさを求めて』 蔦森 樹 (つたもり たつき) 朝日文庫(2001年3月刊) 授業に一度講演に来ていただいたことがあるので、間近でお話する機会があった。元は男性としてナナハンのバイクを駆るライターだったというその人は、背こそ高いものの、笑顔の優しい、ほっそりとしたきれいな人だった。バイクで車を潰す方法について、「ね、簡単でしょ?」と笑顔で教えていただいたのだが、私がそれを実践するためにはまず、二輪の免許をとって、ブーツに鉄板を仕込むところから始めなければいけません…先はまだ当分長いようです。 この本が単行本として出た頃に、「こんな男が増えたらこの国は滅ぶ」とかぬかした男のコメンテーターがいるらしいが−−−とんでもない。まともにこの本を読んだとは思えない。自分が自分であるということにこれほど真摯になることができるのか、私は息苦しいくらいだった。たとえ布団にあぐらかいてコップ酒飲んでようと私は生物学的に女であるという事実が、本当に申し訳なくなるほどに辛い。−−−けれど、この人の文章はとても前向きで、私は好感を持った。そういえば、見送った背がとても綺麗に伸びた人だったっけ−−−そんなことを思い出させる一冊。 『Queer Japan』 責任編集:伏見 憲明 勁草書房 「クィア」というのは「奇妙な」いう意味の英語だ。もともとはゲイに対する差別用語だったのを、同性愛者たちが意味を転化させで自称としたことで、今ではトランス・ジェンダーまで含めていわゆるセクシャル・マイノリティたちをすべて包括する言葉として使われている。−−−そういう用語を誌名に掲げた雑誌だ。 “ゲイ雑誌”というとき、大概の人が思い出す本はだいたい想像がつく。誌名もわかる。―――それで思うことは、「もしかして、大半の人たちはあれがポルノ雑誌だということに気付いていないんじゃ?」ということだ。同性愛者たちの本であることと、それがポルノ的な側面を持っていることとはまったく別のはずなのに、それが混同されているのでは、と思うのだ。そう考えると、むしろ今までに「同性愛を語る、ポルノ以外の雑誌がなかったのだ」ということに気付かされる。 この『Queer Japan』という本は、伏見憲明責任編集となっている。同性愛者として、フェミニズム関連の本では有名な人だ。勁草書房もフェミニズム関係の本を出版していることにかけては老舗の出版社である。原稿募集に際し、必ずしも同性愛についての原稿ではなくても、セクシュアリティに関連するテーマならOKとしていることもあって、実に面白い本に仕上がっている。<セクシュアリティ関連の本を読んでいれば目にする名前がごろごろ寄稿しているし。最新号のテーマは「老後」について。瀬戸内寂聴がドラッグクイーンと対談したり(「瀬戸内寂聴、カマに説教!!」)、岸田今日子へのインタビューがあったり、「カマ護士」と称する老人介護士が見たホームの実態…などなど。それ以前のテーマは「友達がいますか?」「魅惑のブス」などなど。自身のセクシュアリティに関係なく面白く読める雑誌だ。―――願わくば、もうちょっと安いといいなぁ…と思いつつ、まぁこれだけ読むところがあれば当然か。季刊誌だしね。1700円でもしょうがないか…。 まだ5冊くらいしか出ていないけれど、私は結構楽しみにしている。大きな書店であれば、フェミニズムやジェンダー論などの書籍と並んで置いているところが結構あるので、もし機会があればいろんな人に手にとってみて欲しい一冊です。 |