■小野 不由美■
『黒祠の島』
『過ぎる十七の春』
| ■小野 不由美 (おの ふゆみ) |
| 『過ぎる十七の春』 講談社X文庫ホワイトハート (1995年4月刊) |
| 直樹と典子の兄妹にとって、春と夏に伯母の家を訪ねるのは毎年の楽しみだった。まるで手をかけていない野草に溢れた庭と見せかけて実は丹精された庭は、春になると一面の花で満たされる。そこに住んでいる伯母の美紀子と従兄の隆。穏やかな二人が住む古いたたずまいのこの家を、二人はまるで桃源郷であるかのように思っていた。 ところがその年は何かが違っていた。同じ年の直樹と隆はこの春休みに誕生日を迎え、十七歳となる。けれど年のことを口にするたびに、暗い顔を見せる美紀子。その様子を気遣う隆の側にも、密かに憂えていることがある。毎晩、午前二時頃になると、部屋の外の庭に何かの気配を感じるのだ。 ある朝、いつもなら早く起きてくるはずの隆が食卓に現れない。不審に思った直樹が起こしに行くと、隆は人が変わったように母親のことを「あの女」と吐き捨てる。穏やかな人柄の従兄が突然見せた豹変に、直樹と典子は戸惑う。そして急に冷淡になった隆の様子に、不自然なくらいに怯える美紀子。桃源郷ではなくなったこの家に留まり続ける気まずさに、予定を切り上げて早く帰ろうかと考えているうちに、破局は起こった。美紀子が自殺を図ったのだ―――。 『黒祠の島』に続いて、単発の小野不由美作品を。以前、朝日ソノラマ文庫で『呪われた十七歳』という大変判りやすい(笑)タイトルで出ていたらしいですが、私の初読はこのホワイトハート版。波津彬子挿画ということで、各章の扉に添えられた花のイラストも綺麗です。 この話は「この子は私の子どもです」という母親の悲痛な台詞と、子どもが「―――おかあさん」と呼びかける声だけで構成されたシーンから始まる。いつのものとも知れないこのシーンが、各章が終わるごとに少しずつ台詞や背景が書き込まれていき、その場で何が起こったのかが徐々に明かされて行く仕掛けになっている。少しずつ情報が与えられていくことで、画像がPC上にゆっくりと読み込まれて行くかのように、脳裏に情景が浮かび上がる。上手いなと思います。 庭を訪れる気配の辺りはちょっと安直な描写かなと思いつつも、少しずつ部屋を侵食していく手の描写の辺りなんかは結構怖い。まあこれは私の「恐怖」に対する反応の問題かもしれませんが。<直接的なモンスターの描写にはあまり反応しないけど、むしろ見えない背後に感じ取れる気配の方が怖いと感じる体質なので……でも同じホワイトハートから出ている『悪夢の棲む家』や『緑の我が家』なんかはかなり怖かった覚えが。 描写といえば、典子が「桃源郷だと思っていたみたい」と言う家の様子を描き出す文章が、私はとても好きなのだ。次々に並べられる花の名前はすべて綺麗な漢字で書かれていて、私はそれだけでもかなり幸せになれる(別に本筋とは関係ないけど)。 この話で、脇役だけど私が好きなのは、口は悪いけど聡明な典子(<人の顔色や場の空気を実によく読んでいる女の子。血液型の切り返しの辺り、私は全然気付きませんでした…ってのは単に私が理科苦手だっただけか?)と、勇敢で賢い老猫の「三代」。歌舞伎役者の名のついた縞柄に似た模様のこの猫は、敏感にこの家に入り込もうとする悪意を感じ取っていて、まるで母親の美紀子の遺志を移したかのように立ち向かおうとする。実にかわいい。<猫好き。 最後の辺りが、やっぱり1冊限りで終わらせなければいけない本のせいか、もうちょっと描き込んで欲しかったと思わないでもないものの、途中の「この家系に対する悪意」が誰のものなのかを直樹が過去帳を手がかりに探して行く辺りなど、面白いです。手軽に読めるし、お勧め。 |
| 2002/07/07 |