■都筑 道夫 (つづき みちお)
『なめくじに聞いてみろ』
扶桑社文庫 昭和ミステリ秘宝 (2000年10月刊)
 ある日の午後、一人の青年が、信号の壊れた銀座四丁目交差点で交通整理中の警察官に尋ねた。
「教えていただきたいことが、あるんですが。あのう、東京でいちばん、ぶっそうなところは、どこでしょう」
 信号の渡り方も知らない、きょう出羽の山の中から東京に着いたばかりという青年は、真顔で「いわゆる殺し屋がいるようなぶっそうなところです」と警察官に聞く。青年の名前は桔梗信治。彼は殺し屋を探している。かといって誰でもいいわけではなく、拳銃やナイフを遣うようなありきたりの連中には用事がない。彼が探しているのは珍しい殺し方をする殺し屋なのだ。東京に着いたその日に、彼が西銀座の「ゴモラ」という酒場で「殺し屋を探しているんです」と店のバーテンに尋ねるところから、この話は始まる―――。

 タイトルの「なめくじに聞いてみろ」というのは「聞かれても教えられない」という意味、らしい(と作中に書いてあったから)。タイトルだけは知っていたこの話、長い間ヘンな題だと思っていたのが、本を手にしてようやく謎が解けました。この台詞、この長編(というか、短編連作集かな)を通して繰り返される台詞なのだけれど、ラストの一話になってきちんと活きてきます。

 この桔梗という青年が殺し屋を探しているのは、誰かを殺したいほど憎んでいるからではなく、彼らをこの世から消したいという目的があるから。その理由がなかなか面白いのですが、目指す相手は1ダース(+α)。そして彼らの使う武器が「そんなのあるか?」という方法ばかり。それらをどうやって桔梗が受け流して相手を殺すかというのが醍醐味です。…なんかあれみたいだよなあ、『真吾十番勝負』。と言ったら年くってるのがバレそうですが(<私が見たのは真田広之版でしたが…将軍の御落胤が剣術の勝負をする話です、確か)。ま、そんな感じです。他に私が読んでみようと思いつつまだ果たせていない同じ作者の本のタイトルが『猫の舌に釘を打て』なので、なんだか暗いイメージだし、てっきり乾いた文体で書かれた暗いミステリ…なのかと思いきや、ユーモアミステリでした。最後まで読んで著者のあとがき(といっても何十年か前の)を読めば「ああ、アレをやりたかったのね!!」と判ると思います。多分そっちのほうがわかりやすいです…真吾十番勝負よりは(笑)。

 この殺し屋たちを探し、殺す手助けをする助手たちが、トウキョオ・インフォメイション・センター(要するに興信所)の調査員・鶴巻啓子、自動車泥坊の大友“ビル”、腕のいい掏師兼壷振りの佐原竜子。啓子と竜子の間に鞘当てなどもあったりして、この辺りの台詞のやりとりもなかなか面白く読めると思います。

 この話は、もともとの連作が昭和36年から37年に雑誌連載されていたというものなので、ちょっと生活描写が古いです。とりあえず物価がよくわかりません。殺しの前金に五万円というのはどれくらいの価値なんだろう…とか(あと風俗業の種類…ヌードスタジオって何かと思った/笑)。…というのはあるけれど、やたらと博学な桔梗が時折示すESPやポルターガイストなどの雑学は、この時代には随分目新しかったんじゃないかと思わせる内容です。文体の軽妙さもあって、それほど古さを感じさせない内容じゃないかなと。…ただ殺し屋が「最近フルシチョフ氏やケネディ氏を片付けてくれという依頼があってね」という台詞には「…もう先越されてるよ」という気持ちになりましたが(笑)。

 私が好きなのは、自動車泥坊の大友くん。カーマニアで、最初は悪党らしく見せているけれど、一度桔梗に敬服してからは「あにき」と呼んで慕い、一生懸命情報を集めてくる辺りがなかなかかわいいのです(<なんだか私の好みって判りやすい…)。しかしこんなに世の中に殺し屋ってごろごろ転がってるものなんですかね(笑)。なんにせよ、アイデアで勝負といった趣の一冊(<わずか1頁に満たない著者の前書きを見ただけでも、私は面白そうだと思いました)。でもって、最後まで読めば「ああ、なるほどね、あのパロディなのね」と納得できるはず。四十年も前によくこれ書いたなという感じの、結構な数の死体が転がるブラックユーモア溢れる話なんですが、気軽に楽しめる一冊だと思います。

2002/07/31

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