| ■真保 裕一 (しんぼ ゆういち) |
| 『防壁』 講談社文庫(2000年7月刊) |
| たとえ自分の身を楯にしても、警護対象者を守る。それがSP(シークレットポリス)と呼ばれる警視庁警護課員の仕事である。 警護課の中でも遊軍的な立場にある機動警護隊の佐崎は、特別警護のために神谷係長の指揮下に入るよう命じられる。神谷は佐崎がSPになったときの最初の上司だった。個人的に確執のある相手の指揮を受けることに躊躇する佐崎。特別警護の対象となったのは、ゼネコン疑惑の渦中にある最大野党(昨年まで与党だった)の政調会長まで勤めた建設族の議員である鳴川。自宅に火炎瓶が投げ込まれるなどの騒ぎがあり、右翼を調査中だった。もともとの鳴川の警護の担当には、姉と結婚した同僚の大橋がいる。厳重な警備の中、鳴川は狙撃され、楯となった大橋が撃たれた。本当にこの事件は鳴川を狙ったものなのか。佐崎の心の中に、疑念が芽生え始める―――。 生命の危険がある業務に従事する公務員ばかりを主役にした短編集。表題作「防壁」が警視庁警護課員であるのをはじめ、「相棒」では海上保安庁特殊救難員、「昔日」では陸上自衛隊の不発弾処理隊員、「余炎」では消防庁の消防士が主人公となる。『ホワイトアウト』(これも好き。映画もそれなりに面白かったけど、やはり原作の方がよかった)のような派手な作品ではないが、私が読んだ真保作品の中では一番好きな本である。 どれも日常的に生命の危険があるような職業ではあるが、むしろこの話で描かれているのは、彼らを心配する妻や恋人との関係にあるように思える。その意味で、白眉だと私が思うのは、不発弾処理隊員を主人公とした「昔日」だ。 住宅の建替工事の最中に発見された不発弾処理のために出動した高坂は、戦時中にその地域に投下された爆弾の記録と食い違う大型の爆弾であること、また発見された一帯と周囲の土が微妙に違っていることから、この爆弾の出自に疑問を覚え、調査を始める―――。 高坂には一度結婚に失敗した過去がある。不発弾処理に携わっていると結婚直前まで告白できず、一人で不安に駆られながら官舎で待っていることが耐え切れなくなった妻との仲はどんどん冷えていき、ついに決定的な破局へと至った。頁をめくると、まず冒頭目に入るのは、別れたかつての妻からの「結婚することになりました」という手紙だ。離婚してからの時間の経過を示すかのように、手紙は他人行儀なほどに丁寧な筆致で綴られている。その短い手紙への返信として書かれた高坂からの祝いのメッセージが、この短編の最後をしめくくる。そこで、離婚へと至った決定的な病院での記憶(このシーン、とても怖かった。入院したことのある人なら、夜中に目を覚ました時にベッドの脇にただうつむいてじっと人が立っていたと思ったらわかると思う)が、実に鮮やかな転換を見せる。うまいなあ、と思う。 母親の再婚相手に素直になれなかった子どもの頃の自分を恋人の子どもに重ねてしまう「余炎」もいい話です。 この短編集は、どれも終わり方がいい。危険な仕事を描いてはいるけれど、同時にそれは彼らにとって日常でもある。決して完全なハッピーエンドではないけれど、どれもこのあと彼らが少しでもいい方向へと歩き出していくのではないかと―――そう思わせてくれる温かさがある。地味ではあるけれど、ちょっといい気分で最後の頁を閉じられる本だ。 |