| ■倉知 淳 (くらち じゅん) |
| 『星降り山荘の殺人』 講談社ノベルス(1996年9月刊)、講談社文庫(1999年8月刊) |
広告代理店に勤める杉下和夫は、後輩をねちねちといびる課長補佐を殴ってしまい、職場で配置転換にあう。新しい部署はクリエイティブ部、肩書きはマネージャー見習い。要するに社が抱えるタレント文化人の付き人である。杉下がつくことになったのは、スター・ウォッチャーの星園詩郎。ギリシア彫刻のような美形で、夜空や星に関するやたらロマンチックなことをべらべらと喋っては、おばさまや若い女性に人気のある男である。 なんだ、ジゴロ兄貴のお目付け役かよ―――。 そう腐る彼の初仕事は、リゾート地のイメージキャラクターとして意見が欲しいというリゾート開発会社社長の招待にくっついての出張。秩父の潰れたキャンプ場に集まったのは、会社社長とその部下、陰気な中年のUFO研究家、くえない美人の少女小説家(しかもおっさんくさい)とその秘書。バイトでホステスをしている、社長の連れの派手な女子大生二人。それに星園と杉下の計9人。最初は星園をうさんくさいアイドル文化人とバカにしていた杉下も、しばらく話すうちに彼の頭の良さに気づき、考えを改めるようになる。また、作家に同行している秘書の女の子がかわいくて、この仕事も悪くないなと思ったり。 そして雪がひどくなった翌朝、会社社長が死体で発見された。警察を呼ぶにも、麓への道は雪崩で閉ざされている。犯人は誰か。杉下は星園の助手のようなかたちで推理を進めることになる―――。 倉知淳といえば猫丸先輩のシリーズ(『日曜の夜は出たくない』他/創元推理文庫)で有名になった作家ですが、敢えてそちらではなく、この一冊を挙げたい。<猫丸先輩のも面白いのだけれど。 ノベルスの帯には「これぞ『本格』の王道!これぞ『犯人当て』!」とある。吹雪の山荘というお約束のクローズド・サークルもの(それが埼玉というのがちょっと珍しいかもしれないが…)。限定された容疑者たち。星園の華麗なる推理(推理以外もいろいろ無駄に華麗だ)。まさに真正面から新本格―――である。でも倉知淳なので、一筋縄ではいかない「本格」だったりする。 <『競作 五十円玉二十枚の謎』(創元推理文庫)に収録されたデビュー作から遺憾なく人の悪さを発揮している作家だし。 この本には、シークエンス(一続きの場面)の始まるごとに、枠のなかに数行の作者からのコメントがついている。この手法は、都筑道夫の『七十五羽の烏』(光文社文庫)で用いられたものだが、そこでは作者は絶対に嘘をついてはならない。だから、そこで「主人公は犯人ではない」とあれば、絶対に杉下は犯人ではないのである。実は記述者が犯人―――なんて叙述トリックではないので、その辺は安心して読んでください。 一読して、私は「―――やられた…っ」と思った。でも、前に遡ってみると、確かに嘘はついてない。推理のためのデータもすべて開示してある。本当にフェアなのである。 これだけ見事に投げ飛ばされれば面白いよなと思って、何人かの友達に貸してみた。「フェアだったでしょ?」と訊くと、「うん、フェアだった……んだけど……」と複雑な表情。返却してくる彼女たちの顔が一様に憮然としているのが面白くて、つい毎回訊いてしまった。 推理を繰り広げる星園詩郎は、スター・ウォッチャーである。多分こんな肩書きつけてるのは、日本で彼一人くらいだろう。ギリシャ彫刻のような美貌で、歯の浮くようなことをべらべらと喋る。仕草はやたらに気障。とにかくうさんくさい。でも、だからといって「げ、また美形の探偵モノかよ」などと本を放り投げるのはまだ早い。単にそんな話なら、先に私がとっくの昔に本を投げ捨てている。鳥肌が立ちそうな甘ったるい台詞も、どうして彼がこんな仕事をしているのか、杉下と二人で過去を話す辺りまで耐えてみてほしい。そのうちだんだん慣れてくればしめたもの。―――あとは最後まで読んでみてのお楽しみ。途中で投げちゃうともったいない一冊です。本格モノも結構好きという人に読んでみてほしい。 そしてもし機会があれば私は訊いてみたい。 「どう?フェアだったでしょ?」 |
| 2002/06/14 |