■駒崎 優 (こまざき ゆう)
『運命は剣を差し出す バンダル・アード=ケナード』1〜3
中央公論社NON☆NOVELS (2004年1月、2004年7月、2005年6月刊)

エンレイズとガルヴォの二つの大国の間で何年も戦争の続く世界。両国の間にはさまれて戦場となっているモルダーを旅するエンレイズ人の医師ヴァルベイドは、戦闘のあともまだ生々しい戦場にさしかかった。そのなかで、木の下に明らかに人の手によってつくられた雨風をしのぐ為の場所がある。もしやまだ息のある人間がいるのではないかと覗き込んだ彼は、突きつけられた剣に息を呑むことになった。そこにいたのはまだ三十そこそこと見える若い痩身の男。彼をガードする白狼に睨みつけられながら、ヴァルベイドは彼の足のケガを治療することとなった。青年の名はジア・シャリース。エンレイズでも有能さで名の知れたバンダル(傭兵隊)・アード=ケナードの隊長だった。無能な貴族に雇われ、左足を負傷して独力で歩けなくなった彼は雇い主の命令で戦場に置き去りにされることとなったという。実はヴァルベイドの方にも護衛を必要とする事情があった。たまたま危篤の瞬間にいあわせただけの彼に妻を殺されたと信じている商人が、彼に高額の賞金をかけたのである。仲間と合流したいシャリースと護衛を必要とするヴァルベイド、それにシャリースを護衛する白狼エルディルは、バンダル・アード=ケナードを追って旅を続けることになる―――。

私にしては珍しく、ファンタジー系の本を買ってみました。別に魔法も竜も出てきませんが、剣は出てきます。なんでこんな知らない作家の本を買ったかというと、その日持っていた本が救急救命病棟勤務の医者のエッセイで、たび重なる流血の描写に貧血を起こしかけ、動けなくなりそうだったから………と、とにかくこういう時はテンポの速い本!というわけで、普段滅多にのぞくことのないノベルスコーナーで手に取ったのがこの本だったのです。イラストがきれいで目を惹いたので。しかし「私にしては珍しく若い人向けの本を買った」とメールしたら、「あれ、ほんとに若い人向けか?おっさんばかりじゃん」というレスが返ってきました……いいの、当社比で若い人向けなの!

上記のメールの通り、面子は男ばっかりです。傭兵隊の話だから当然なのですが、ファリースが三十過ぎ、ヴァルベイドは四十過ぎかな、あとバンダルの面々も最年長が四十五……こんな感じです。若いのもいるんですが、だいたい三十以上の男が大半です。女性で固有名詞があるのなんて、三冊通して二人くらい。多分。

一冊目はひたすらシャリースがヴァルベイドを連れてバンダルを追っかける話。しかし賞金首になっているのは医者だけではなく、過去にやった仕事のせいで彼自身も別に賞金がかけられてしまっており、襲ってくる敵の狙いがどちらなのかもわからなくなる。傭兵、賞金稼ぎ、街のごろつき………彼らを生かすのは彼ら自身の才覚だけなのでした。意外にヴァルベイドが腕が立ったりするのですが、無茶をして戦闘を重ねるたびにシャリースの足の傷が一進一退であったりして、なかなか状況は好転しません。しかし一冊目のラスト、絶対絶命の場面まで来て、二冊目がいきなり過去編になるのです……何故!ヴァルベイド!彼はどうなったの!(<読み始めた時はまだ二冊目までしか出てなかった)という感じですが、一冊目ではエルディル以外のバンダルのメンバーとははぐれっぱなしのシャリースが、二冊目ではちゃんと隊長さんらしくなります。

バンダルの主要な面々も個性があって面白い。シャリースの幼馴染で小柄で陽気なダルウィン、大男で穏やかなノール、野卑だけど親切なノキア、最年長で沈着冷静、伊達者のゼーリック、女とみたら声をかけずにいられない美青年アランデイル、隊最年少でいつも食べ物のことを考えているチェイス、それにマドゥ=アリ。異国から来た、顔半分を刺青で覆われた黒髪に浅黒い肌の彼は、白い肌と明るい色の髪が主流のこの地方では外見からして異質な存在で、腕はたつものの、最初はバンダルの他のメンバーと互いに敬遠しあっているような状態だったが、だんだん彼の過去が明らかになるにつれて、隊に馴染み、大事な隊員となっていく。いつも何かを恐れている彼のことが、私はかわいくてならず、ちょっとでも幸せになって欲しいと願うばかりです……気分はシャリース<お父さん。シャリース、いい人なのですよ……二巻目のマントのエピソードなど、大好きです。

肩肘をはらない傭兵たちのやりとりが楽しく、また有能さで名を馳せながらもバンダルとしては小規模なアード=ケナードが生き残る為には、腕が立つことは当然の前提として、さらに才覚が必要なわけです……この場合、「才覚」とは「ずるい」とほぼ同義語であったりします。騙まし討ちに囮、詭計、つかえるものはなんでも使う。たとえそれが貴族だろうが国王様のいとこだろうが、敵の名前だろうが。傭兵なんて物騒な商売をしている癖に、意外に人のいい彼らがいとおしくてなりません。

とりあえず三冊でこの話は完結していますが、シリーズとしてはまだ続くそうなので、次回作を楽しみに待つことにします。

2005/07/02
2006年9月に続編『あの花に手が届けば』が出ました。
シャリースたちバンダル・アード=ケナードの主要メンバーに加えて、バンダル・ルアインなども再登場。
『運命は剣を差し出す』が面白かった人、ぜひ続編も読んでみてくださいv
2006/10/01