■古処 誠二■
『UNKNOWN』
『未完成』

『分岐点』
『接近』

■古処 誠二
『未完成』
講談社ノベルス(2001年4月刊)

自衛隊がマイクロ回線の保守管理基地を持つ小さな島、伊栗島。そこで訓練中に一丁の小銃が紛失した。隊員たちが銃から目を離したのはほんのわずかな時間。あってはならない不祥事に島の司令と指揮していた二人の小隊長は顔色をなくし、事態を隊員には知らせないままに、防衛部調査班に連絡してきた。その要請に応え、調査の為に島に赴く朝香ニ尉と野上三曹。訪れた小さな島は、無医村という不自由な環境と、自衛隊側の地元に溶け込もうとする努力の甲斐あって、珍しいくらいに地元と自衛隊が協力的な関係を築き上げている島だった。島民からはまったく自衛隊に対する批判的な言葉が出てこず、つねに基地改善の努力を続ける基地司令と隊員たちの信頼関係も厚い。隊員たちもみな真面目な人柄。基地の警備体制も少人数ながら厚い。繰り返し検証される当日の射撃訓練の模様。その最中に島民の女性の怪我により、訓練は中断された。その事故は偶然なのか。いったい小銃は誰が盗ったのか。難航する調査の中で、様々な意味で「天国に近い島」―――伊栗島に数ヶ月前に不審人物が上陸していたという情報を二人は得た。小銃の紛失はその不審人物によるものなのか―――。

『UNKNOWN』に続く、朝香二尉と野上三曹コンビのシリーズ。全国を転々とする調査の必要上、朝香二尉の本がシリーズ化されるとしても野上三曹が登場することはもうないだろうな―――そう思っていた私の思惑を裏切る、設定はちょっと苦しいけれど(笑)、嬉しい続編。私はこのワトソン役の野上三曹というまっすぐな青年が大好きなのだ。

前作の『UNKNOWN』という本が基地の内部だけで完結する物語であったのに対し、この本は小さな過疎の島ではあるけれど、自衛隊とその外の共同体の関係を描く、いわば自衛隊という特殊な世界の外まで視点を広げた物語になっている。無医村で船がなければ外に出ることができないという島の特殊事情こそあれ、その島で隊と島民との共存関係を築こうとする司令である二佐の努力にも(そのアイデアゆえに)目を見張るものがあるし、上月さんに代表される島の人々もいい。

もう五年ほど前になるのか、私は防衛庁の採用説明会というものに行ったことがある。といっても公式なものではなく、うちの大学のOBが喫茶店でやる程度の説明会だったのだけれど。家に案内が届いたので友達のつきあいで行ったはいいが説明はちっとも頭に入らず、『ルノアール』のうまくもないコーヒーを飲みながら、南極探検船『しらせ』と一緒に写っているペンギンの写真を眺めているうちに終わった。要するにあまり興味がなかったのだろう(それ以前にその説明会がいわゆる「キャリア」対象のもので、国家公務員試験T種試験に合格することが前提だったということはさておいて。<私の頭で受かるわけない)。ちなみにうちの大学からその年、防衛庁にキャリアで就職した学生はいなかったような気がする(警察庁はいたが)。どうしても防衛庁というところは、一般の学生の意識からは遠いのかもしれない。

最近、自衛隊を扱ったミステリが多く出版されていて、これがなかなか面白い。私ははまった。…あんまりはまったので自分が自衛隊フェチなのかと思って『日本の国防』なる本まで買ってみたが、読み終えないままに部屋の中で行方不明にしてしまった。どうやらそういうわけではなかったらしい。…見つけたら今度こそちゃんと読もうっと(課題)。
そんな私がはまった一連の作品とは、自衛隊と防衛産業の関わりを扱った五条瑛『スノウ・グッピー』、福井晴敏『川の深さは』『Twelve Y.O.』『亡国のイージス』(ただしこれらはかなりSF自衛隊)、そしてこの古処誠二の『UNKNOWN』『未完成』である(ついでに北朝鮮という存在の色が濃いものが多いのも面白いところ)。これらの諸作に共通しているのが、いずれも現在の自衛隊が置かれている状況に対する強い危惧をたたえているところである。

前作『UNKNOWN』では、自衛隊の置かれている状況として「対地域社会」という問題がひとつのテーマだった。それに対し、この『未完成』では、地域社会と自衛隊とが共存を果たした状況において、外敵に無防備な状態でさらされている国家の安全というものが重いテーマとなる。それを二十代の若い自衛官たちの口から語らせることで、一般の読者にもわかりやすい内容となっているが、多分これは実際に現場の自衛官たちが抱える不満なのだろうと思う。前作とは動機もきっかけも正反対だけど、これも是非いろんな人に読んでみて欲しい一作。もちろん、そういったテーマの重さと別に、登場人物たちの魅力(伊栗島の人々も含めて)も健在だし、「小銃の紛失」という謎を丹念に条件とひとつひとつ潰して解いていく新本格ならではの検証も読みどころ。お薦めです。

2003/01/04
※こちらの壁紙は古処ファンサイト「Auto Store」さまよりお借りしました。
ありがとうございます。

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