■大沢在昌・石田衣良・今野敏・柴田よしき・京極夏彦・逢坂剛・東野圭吾
『小説こちら葛飾区亀有公園前派出所』
集英社 (2007年5月刊)

週刊少年ジャンプでの連載30周年と日本推理作家協会60周年を記念して、雑誌『PLAY BOY』(20周年記念)に掲載された人気作家たちによる『こち亀』コラボ小説をまとめたもの。

……原作は一冊もコミックス持っていないのですが、作家たちが豪華でつい買っちゃいました。
だって新宿鮫と両さんのコラボってどんなのができあがるの?という好奇心で。
しかし最近は大手の出版社が自ら同人誌を豪華執筆者で出すので怖いです。

大半は著者たちのメジャーシリーズが舞台となっているので、新しい本を探してみるときにもいいかも。後ろに詳細な著者紹介もついてます(by西上心太)。

1.大沢在昌「幼な馴染み」

乱暴者の刑事コンビが活躍する『らんぼう』のウラとイケのコンビでもいいんじゃないかなーと思ったのですが、知名度の点からか、『新宿鮫』がベースとなってます。
非番の日、浅草に行ってみたい!と恋人でメジャーロックバンドボーカルである青木晶にせがまれた鮫島は、実家がその辺りで詳しいという新宿署の変わり者の鑑識・藪を誘って三人で仲見世に出かけた。そこで四人連れのスリ師に囲まれた初老の女性たちを助けた老人と遭遇した。そのあと佃煮を買いに出かけたが―――
タイトルからして鮫島と両さんが幼馴染みだったらどうしようかと思いましたが、さすがに違いました(笑)。
ハチャメチャさよりも人情味の方を前面に出してて、ちょっと『新宿鮫』の世界の方が強い感じです。特に両津じゃなくても成立しそうな話。悪くはないけどね。

2.石田衣良「池袋←→亀有エクスプレス」

こちらは池袋WGPのマコトと競演。
マコトは実家の果物屋で働いているところにトレンチコートで明らかにヤクザとしか思えない男から「真島誠はいるか」と言われた。実は警官だという男から持ちかけられたのは、職場近くにある定食屋で働く女性についての相談。彼女は趣味のサイトで知り合った男と何度かつきあったらしいが、どうやら騙されているとしか思えない。不器用な片思いをしているらしい男は、池袋に住んでいるそのペテン師を見つける手伝いをしてほしいという―――
この話ではマコトとくされ縁の池袋署生活安全課の刑事・吉岡と両さんが警察学校同期という設定。
これも池袋WGPの色の方が強い。いかにも規格はずれの子どもや老人、出世しないオッサンとのやりとりのうまいマコトらしい話。
でも「偉大なる人類の祖先クロマニヨン人の骨格をした恐るべきスーパーコップだ」という描写には笑った。

3.今野敏「キング・タイガー」

ノンキャリアで警視の方面管理官まで出世して退官した一人の老人が、子どもの頃にできなかった趣味として精巧なプラモデルを作る話。それを購入する店で神様のような素晴らしい出来のプラモデルを展示しているのは「両さん」という地域課の警察官だという。それに負けないように毎日店に通って努力するのだが―――
正直なところ、私は途中で「なんでこれ読んでるんだっけ」と思いました(苦笑)。作者がフィギュアマニアだということもあってその薀蓄は「へぇ」と思いましたが………読後感は悪くないけどね。
警察ものということで、神南署/ベイエリアの安積警部補シリーズか、ST 科学捜査班シリーズを使うのかな?と思っていたのですが、確かに『ST』を舞台にして「野生の本能は科学の理性を超越する」とかいうオチになったら、あの話の設定を根幹から覆しちゃうものね(笑)

4.柴田よしき「一杯の賭け蕎麦―花咲慎一郎、両津勘吉に遭遇す―」

新宿の無認可保育園「にこにこ園」の経営者である俺のもとに、やたら派手な婦警が訪ねてきた。ここで預かられている3歳の女の子の祖父が食い逃げをしたので警察署まで彼女を連れてきてほしいのだという。暴走する特注パトカーで連れてこられた警察署には、傍若無人そうな警官がいて、数日前に孫が払ったという小遣いのなかから朝定食代400円を払えという―――
『フォー・ディア・ライフ』『フォー・ユア・プレジャー』『シーセッド・ヒーセッド』の主人公である花咲慎一郎のシリーズ。私はこれに載ってた話のなかでは一番コラボとしてはよくできてたかなと思います。そういや前に金田一耕助のパスティーシュも書いてましたね。……山内とか出てきたらどんなことになるだろう(恐ろしい)と思っていましたが、さすがにそれはなかった(笑)

5.京極夏彦「ぬらりひょんの褌」

大原部長は盆栽の本を探しに部下の寺井に案内させて中野の地に降り立った。中野ブロードウェイに立ち寄った寺井が買った妖怪フィギュアを見て、大原部長は自分の若い頃の思い出を語りだす。彼は学生時代、妖怪に出くわしたことがあるのだ。人が入れないはずの部屋なのになぜか食材が食い荒らされていく。悪臭と、残されたフンドシ。その物語を公園のベンチで寝っ転がって聞いていたうさんくさいすだれ禿は「それはぬらりひょんである」と言った―――
南極夏彦というすだれ禿が出た時点で「すべてがデブになる」「パラサイト・デブ」などなど、どっかで聞いたような名前の力士というか巨漢フェチ小説(?)シリーズの『どすこい。』シリーズ、かと思いきや(版元も同じ集英社だしね)、ここは中野。長年古書肆を営むという老人が出てきて「この世には不思議なことなど何もないのですよ」とキメ台詞を吐いてくれます。明らかに京極の文章なのですが、そのなかに違和感なく大原部長がいて、楽しく読めました………が、京極堂シリーズを読んできた人には
関口くんは京極堂よりさきに死ぬという悲しいお知らせがあります(でも「知人」から「友人」に格上げもされたようです、関口くん)。とりあえず巻末紹介に対しては、「京極、関口、榎木津の三人が……」というくだりに「なんで木場が入ってないのよ!」と言いたい気持ちでいっぱいです。。。
どれくらい原作に対してカルトなネタがちりばめられているのかは私がこち亀をあまりよく知らないのでわかりませんが、最初にちゃんと鳥山石燕が描いたぬらりひょんの絵が掲げられている辺りに脱帽(笑)

6.逢坂剛「決闘、二対三!の巻」

御茶ノ水署に研修に来た両津&麗子コンビが、御茶ノ水署の3人と「どっちが先に拳銃を押収できるか」で賭けをする話。
幼馴染みのいじめっこ・いじめられっこが部下と上司となってしまった生活安全課保安二係の刑事二人が活躍する<御茶ノ水署>シリーズ(『しのびよる月』『配達される女』『恩はあだで返せ』)が元ネタだそうですが、私はこれだけ出典がわかりませんでした。出典知ってたらもっと面白かったかなぁ。
他にも結構警察小説書いてる作家なんですが、さすがに公安が舞台になる『百舌の叫ぶ夜』とかはこの企画にはムリがあるか(笑)。

7.東野圭吾「目指せ乱歩賞!」

両さんが乱歩賞をとろうと頑張る、ある意味で「日本推理作家協会60周年記念」企画にもっとも忠実な話。
刑事ものとしては、この人もいくつかシリーズありますね。『眠りの森』『どちらかが彼女を殺した』『嘘をもうひとつだけ』『悪意』などの加賀刑事もの、あとは探偵役は物理学者ですがワトソン役が警察官の『探偵ガリレオ』『予知夢』、あとあんまり私は評価していないのですが『容疑者xの献身』の湯川シリーズなど。でもこれはどちらも選ばず、ノンシリーズで完全な原作のパロディですが、ノリ的には『超・殺人事件―推理作家の苦悩』が一番近いかな。いろんな賞の選考過程を茶化すのは、この作家ならでは。

単行本ですが、1時間程度であっという間に読み終わります。
原作知ってた方が楽しいですが、私はそれなりにどれも面白く読みました。お遊び企画としてはまあまあの出来ではないでしょうか?

2007/06/13