| ■北森鴻 (きたもり こう) |
| 『屋上物語』 祥伝社ノン・ノベル(1999年4月刊) |
| 地上40メートルに位置する、ささやかな“楽園”・・・それはデパートの屋上。都内に位置するあるデパート、そこの屋上にはある「名物」が存在する。地下の食料品売り場にに出店している老舗の讃岐うどん屋の麺を使った立ち食いうどんのスタンドだ。味もさることながら、この屋上の名物は、そこを一人で切り回す通称「さくら婆ぁ」だ。それが「桜」という名前なのか、それとも名字で「佐倉」なのかは誰も知らない。いつも厳しい顔をした彼女は、歯向かう者には容赦しないおっかない存在だ。屋上で起こる様々な事件に、彼女はうどんスタンドの常連である興行師の杜田、高校生のタクなどとともに関わっていく―――。 この話がちょっと珍しいのは、語り手が人ではなく、屋上に据えられたさまざまな“もの”であることだ。「もの」が語る話と言えば、事件の関係者たちの財布が語る宮部みゆきの『長い長い殺人』(光文社文庫)などがあるが、この話ではお稲荷さんのキツネであったりベンチであったりする。彼らは常にそこにあって、ずっとそこで起こる「事件」を見ている。けれど何を知っていても、人に話すことはできないという辺りがポイントだろうか。そして常にそこにあることで、人から見ればただ「怖い」と思われるばかりの「さくら婆ぁ」についても、人が知らない意外な一面を知っている。彼らが語ることで、話が進むにつれて、少しずつ「さくら婆ぁ」の過去が浮き彫りになっていくという仕掛けだ。 正直、事件の内容としては「心温まる」というものではなく・・・むしろ悲しい、やりきれないものが多い。けれど、それでも暗くなり過ぎないのは、世間のまっとうな道を歩いているわけではないがどこかひょうひょうとして憎めない興行師の杜田、考えなしで乱暴なところもあるが、案外人のいい高校生のタクといった面々とのやりとりがあるからだ。そしてこのヒロインの「さくら婆ぁ」がなかなかかっこいいのだ。北森鴻という作家には、女性を主人公とした作品が結構あるが、読んだ範囲では私は彼女が一番好きだ。 ついでにいくつか他の本も何冊か紹介。巷間で評価が高いのは、骨董業界を舞台にした『狐罠』(講談社文庫)辺りらしいのですが、私はこれあんまりよく覚えてないです・・・むしろ好きなのはこの辺りかな。 ■『花の下にて春死なむ』(文春文庫) これも結構地味かなぁ・・・孤独に死んだ知人の俳人の過去を女性がたどる表題作をはじめ、小さな居心地のいいパブに集う客たちが関わる謎を集めた短編集。最後に謎を解いてくれるのはそのパブのマスターなのですが(アシモフの『黒後家蜘蛛の会』みたいだ)、料理上手のマスターが供する料理が美味しそうなのも魅力。 ■『凶笑面』(新潮社、2000年6月刊) 異端の民俗学者・蓮丈那智がフィールドワークの中で巻き込まれる殺人事件の推理を行うという短編シリーズ。美貌でエキセントリックかつ辛辣な女性が探偵役という辺りが、新本格らしいといえばらしいのですが…こんなに行く先々で殺人が起こる学者ってどうなのか…。続編で『触身仏』というのも出ているらしいけど、こちらは未読。 ■『堕天使殺人事件』(新世紀「謎」倶楽部著、角川文庫、2002年5月刊) 二階堂黎人、柴田よしき、北森鴻、篠田真由美、村瀬継弥、歌野晶午、西澤保彦、小森健太郎、霞流一、愛川晶、芦辺拓の総勢11名によるリレーミステリ。これは・・・なんと言っていいのか。お財布と時間と心に余裕のある方はどうぞ、というか(苦笑)。←私にはどうやら三番目が足りなかったようですが。最後に決着を一応付けた芦辺拓の力技に拍手とか、個々の作家の特性がこれでもかと言わんばかりに出てて笑えるとか、とても正直に「どうやっても解決は無理そう」という西澤保彦のコメントがおかしい・・・とか。まぁそういう辺りが読みどころ、でしょうか。とりあえず私が見る限り、この話を最初に迷走させ始めたのは、この北森鴻ではないかと・・・だってなんでこの話で「真言宗立川流」なのさ・・・。読んだという人に会ったことないので、是非他の人の感想も聞いてみたい一作。 |
| 2002/09/28 |