| ■石持 浅海 (いしもち あさみ) |
| 『Rのつく月には気をつけよう』 祥伝社 (2007年9月刊) |
「週末にスーパーで生食用のカキの特売があるらしいから、生ガキパーティーをしないか?」 こんな誘いから、いつもの飲み会は始まる。メンバーは大学時代からの飲み仲間、「私」こと夏美、熊井、それに会場を提供してくれる長江の三人。けれどいつも同じメンバーばかりでは話題も偏るので、毎回誰かひとりゲストを連れてくることになっている。酒好きの三人につられてゲストも軽く酔いがまわった頃、なにかしらほろりとゲストの口からこぼれでる言葉。その日のテーマである食べ物にまつわる何かの思い出。結婚を間近に控えた婚約者への不信やカキによる食あたりの苦い思い出、固い豚の角煮にまつわる別れた恋人への未練………なんのへんてつもなさそうな話の中から矛盾に気がつくのは、部屋の主である長江。まめな気遣い、料理の腕、人当たりのよい笑顔の彼だが、実は学生時代「魂を悪魔に売って頭脳を買った」と囁かれるほどの頭の持ち主なのだ――― 石持浅海といえば、デビュー作の『アイルランドの薔薇』は読んでいないけど(カタカナの名前が苦手なので敬遠したの)、そのあとの『月の扉』がなかなか面白かったのでちょっと注目。あとは水族館を舞台にした『水の迷宮』も感じのいい一冊。 このところすっかり商業路線でライトノベルに堕した講談社、それに残念ながらその傾向がなきにしもあらずの東京創元社(まさかあの創元推理文庫でこんなラインナップが出るなんて!/落涙)に代わり、このところ本格ミステリを頑張ってる出版社といえば光文社だ。古いいいミステリを発掘している一方で、「KAPPA-ONE登龍門」のような新人発掘プロジェクトもやっている。そしてこの初回の出身者が石持浅海なのだ。もともと最初に応募したのが鮎川哲也がアマチュアの短編を公募して編んでいたアンソロジー『本格推理』(光文社文庫)だったというのだから、もともと本格志向の強い人なのでしょう。 そんな作家の最新短編連作集がこちら、『Rのつく月には気をつけよう』だ。 学生時代の友達3人+ゲストの飲み会が舞台、死体の転がらない、いわゆる「日常の謎」もの。 先日、『月の扉』に出てくる“座間味くん”(沖縄でハイジャックされた飛行機の中で犯人と交渉した青年がそんなTシャツを着ていたせいで、そう呼ばれていた)が、当時その事件を担当した警察官と再会して、時々飲みながら事件の真相を推理するという『心臓と左手―座間味くんの推理―』を読んだ(『月の扉』のその後編があるので、読む場合はご注意を!)。ただ、警察官が公安(なにしろハイジャック担当だから)ということで、話題にのぼる事件がなんだか現実から遊離しているようで、私はイマイチだったのですが、こちらの本は日常もの、それもテーマは恋愛。というわけで、食べ物片手に交わされる会話もはずみ、読んでいるこちらも楽しくなる一冊。あっという間に読み終わりますが(所要時間、1時間……はかかったかな、一応)、面白く読みました。 三人の飲み仲間のうち、オヤジギャグが得意な熊井が食品会社勤務ですが、著者自身も(今は知らないけど少なくともデビュー当時は)食品会社に勤めているのだとか。なるほど食品の効能や食中毒の話など、熊井の話を読んでいるだけも面白い。しかしなによりも………彼らが食べているもの(料理というほどのものではなかったり……)と酒が旨そうなのですよ!別に豪華なものを食べているわけじゃない。スーパーで買った生ガキやぎんなん、チキンラーメン、手作りの豚の角煮だったりするのですが、食べ物を頂いているときの幸せそうな描写とあいまっていいなぁと思わされる。一番魅力的だったのは、ブランデーとそばのパンケーキの組み合わせ。食べたい。 さて、別にこの本はグルメ本ではありません。ちゃんとミステリです。 ゲストの語る話、そこで描かれる人々の人となり、それを飲みながら推理しあう(まぁ最後に答えを見つけるのは長江なのですがね)安楽椅子もの。連作集ですが、最後の2本だけは、同じゲストが続きます。 「………えっ?」と思って、最終話まで行ってから前に戻ってみましたが、確かに嘘は言ってないし、言われてみればそういえば、という描写も散見。ああ、なるほど。 フェアだけど読んだ友達の全員に「でも納得いかん」と口とがらせられた倉知淳の『星降り山荘の殺人』みたいなことはありません、もっと読後感よく読み終えられますよ(笑) 小ぶりですが、幸せな気持ちで読み終えられる一冊。 レビュー書こうと思いながら紹介しそびれましたが、酒と料理の美味しそうな日常の謎ミステリ連作としては、畠中恵『とっても不幸な幸運』(双葉社)もオススメ。 『しゃばけ』シリーズがヒットしている著者ですが、『百万の手』のほかにも現代ものを何冊か上梓しています。 常連客しか入れない風変わりな新宿のバーを舞台に、100円ショップで売っている「とっても不幸な幸運」という不思議な缶(その人の心の中で気にかかる映像を一瞬だけ見せてくれる)をきっかけに起こる推理合戦の話。口の悪い、でも料理の腕は絶品(ついでに喧嘩の腕っぷしも上等)な店長と、口の悪さでは負けない常連客たちとのかけあいも楽しい。なにしろ店の名前が「酒場」だし、扉の開け方は一見さんにはわからない。そんな店ですが、ここで常連客と認めてもらえたら楽しいだろうなぁ、という店なのですよ。 ミステリとしても面白いですが、料理が美味しそうなのと、なによりモルトの趣味がいいのですよー、そこでカリラと来ますか!みたいな。(「趣味がいい」というより私と近いんだな、アイラ島のとか重めのが好きらしいv) 最後の一話は、そこまでの連作で一番デカイ態度をとっていて、生まれたときからこのまんま生きてきました、みたいな店長の若い頃。まだ先代が店をはっていて、あごでこき使われていた頃の話(言い返すけど勝てない)。彼のいっしょうけんめいさがかわいくて、こちらも読後感のいい一冊。さらりと読めてしまう一冊なので、文庫落ちしたら手にとってみてくださいな。 |
| 2007/11/10 |
| 畠中恵『とっても不幸な幸運』が双葉文庫で文庫化されました。 お料理とお酒の美味しそうな、魅力的な酒場のお話ですv |
| 2008/07/06 |