■東野 圭吾■
『名探偵の掟』
『どちらかが彼女を殺した』
| ■東野 圭吾 (ひがしの けいご) |
| 『どちらかが彼女を殺した』 講談社文庫 (1999年5月刊) |
| 愛知県警の交通課に勤める和泉康正は、ある晩、東京で一人暮しをしている妹の園子から電話をもらう。「お兄ちゃん以外、誰も信じられなくなっちゃった」―――両親は既に亡く、和泉は妹の親代わりでもあった。翌日顔を出すと言っていた園子は、いつになっても現れない。様子のおかしい妹を心配し、非番を利用して妹のマンションを訪ねると、彼女は死んでいた。一見自殺かと見えたが、室内の様子を調べて妹は殺されたのだと確信した和泉は、警察に通報はしたものの証拠を隠し、自殺で押し通すことにした。自分の手で犯人を捕まえ、思い知らせてやりたいと思ったからだ。 容疑者は二人。園子の高校時代からの同級生で親友だった弓場佳代子と、園子を捨てて佳代子に乗り換えた男、佃潤一。休みのたびに東京へ行き、二人の動向を探る和泉。しかし警察も、自殺だという和泉の言葉を信じたわけではなく、練馬署の加賀という刑事がしつこく彼の行く先々に現れる。無茶なことはしないで欲しいという加賀と、妹は自殺なのだという主張を繰り返す和泉。 果たして犯人はどちらなのか。彼か彼女か。どちらが妹を殺したのか―――。 『名探偵の掟』を紹介したときに少しだけ触れたのですが、独立させてみることにしました。この本は、私のような怠惰なミステリ読者向け。なにしろ、私が買ったのはノベルス版なのだけれど、最後まで読んでも犯人を明確に名指しする文章がないのだ。読者は、二人の警察官―――和泉と加賀が繰り広げる推理を元に、いったいどちらが本当の犯人なのかを考えなければならない。とは言っても、かなり丁寧に手がかりが並んでいるし、容疑者は二人しかいない。ある記述に気がつけば、おそらく犯人に行きつけるだろう。…とは言うものの、ノベルス版には解答がついていない。文庫版には西条心太というミステリ評論家が書いたほとんど解答を指し示す解説がついているのだが、これがご丁寧にも袋綴じときている。…というわけで、私はいまだに私の信じている解答が正しいのかどうか、確証を得ていない。誰か文庫版を読んだ人がいたら、是非私に教えて下さい(<弱気)。 これは単発モノのミステリが多い著者には珍しく、以前に『卒業 雪月花殺人ゲーム』や『氷の森』などで主役だった加賀恭一郎刑事が狂言廻しとなっている。同じく読者が推理しなければならない趣向、かつ加賀が登場する作品として、講談社文庫所収の『私が彼を殺した』というのもあるが、こちらの方が難しい。『どちらかが彼女を殺した』では、語り手が三人称で被害者の兄である和泉の視点ひとつに絞られているのに対し、こちらでは容疑者三人の視点が一人称で次々に入れ替わるからだ。結婚式の最中、突然に倒れた新郎の作家。毒殺事件の容疑者は三人。新婦のことを妹でありながら男として愛していた兄。かつて新郎とつきあっていたが堕胎を強要された挙句捨てられた編集者の女。そして、好きだった女を新郎に弄ばれた挙句自殺に追い込まれたマネージャーの男。ラストの謎解きになると、視点はめまぐるしく動き、いったい犯人が誰であるのかますます判らなくなってくる。…初出は雑誌『メフィスト』での連載だけれど、これ連載の時点ですんなり犯人わかった人っているのかな…私が推理弱いだけか?文庫版で読んだので解説で犯人判りましたが、あいかわらずノベルス版には解答がなかった。文庫に落ちるまで待ってよかった…。 ほかには、犯人の手記と加賀の捜査記録(というか覚書)で構成された『悪意』(講談社文庫)。事件の起こりからして、読者に与えられる情報は「手記」という形である…それゆえに事実と完全に合致しているかどうかは読者には判らないという面白い構成だ。タイトルにある「悪意」とは、いったい何を指すのか。手記のどこに嘘があるのか。―――これも面白いです。 |
| 2002/07/20 |