■船越 百恵 (ふなこし ももえ)
『名探偵症候群(シンドローム)』
光文社カッパノベルス(2005年4月刊)
相原茅乃、三十二歳。独身。女性雑誌編集者。
その日は九月十三日の金曜日、しかも仏滅だった。五年越しでつきあった男にはふられ、ローンの残ってるプラダのヒールはかかとが折れ、しかも帰ってみたら天敵の幼馴染の披露宴通知が届いており、かつ留守電には「茅乃も恋人を連れて出席するって言っといたから!」という母の命令。しかも披露宴は一週間後。ふつー案内を一週間前に送ってくるやつがあるか!?とは思ったが、男に逃げられましたなんてことは死んでも白状できない。頼りの綱の男友達は薄情にもデートだからつきあえんと言う。頭をかきむしっているところに女友達から出された代案は「エスコートサービス」……恋人役を頼んだらどうか、と。そんなこっ恥ずかしいことができるもんかい!と啖呵をきったものの、出社してみたら命じられた仕事はエスコートサービス体験記の取材だった。やけで頼んでみたら、打ち合わせでやってきたのは案外堅気っぽくて感じのいい男。……が、当日時間になってもちっとも来ない彼にイライラしていたら、やってきたのはとんでもなく美形の刑部芯(おさかべしん)という男だった。本来の担当者は急病だったんで、ピンチヒッターですと名乗る彼に、こんな目立つ男は頼んでねぇ!とは思ったが、代わりを頼む暇はなし、やむなく二人で千葉のド田舎の結婚式場まで来てみたら、ハプニング続出、おまけに連続殺人事件。こんな状況だというのに、刑部はやけに積極的に現場を調べようとするそぶりをする。積み重なるうちに、やがて茅乃は疑心暗鬼に駆られ始める。恋人同士のふりはしているものの、私はこの男のことを何にも知らない。もしかして、殺人鬼は、私の隣にいるこの男なのではないのかしら……。

最近、ミステリで面白い出版社は光文社だと思う。

綾辻、法月、我孫子といった新本格第一世代が出てきた頃は、講談社が面白かったし、その後で東京創元社が北村薫、宮部みゆき、有栖川有栖他、多くの作家を発掘した。その時代に出てきた作家たちがもたらしたものをみれば、確かにその二社の功績はすごいと思う。でも、と読者としては思うのだ。「新」本格というものの第一世代が成り立ったのは、それを好きだという編集者や新人作家たちの熱意があったから。けれど商業ベースで成り立つようになってしまった今、編集者たちは「それがどれだけお金になるか」と考えているのではないかと。講談社の雑誌『メフィスト』の巻末に応募作についての編集者たちの座談会が掲載されている。私はそれがたまらなく嫌いだ。「これなんかいいんじゃない?コミケでうけるんじゃないの?」……そんな読者の妄想だけに媚びた本を私は買いたくないし(そもそもミステリとしての評価をしていない)、そんな理由で採用されても、作家は使い捨てにされるだけだろう。そういえば新本格第一期の頃、新人作家たちははげしく旧来のミステリ好きから叩かれていた……たとえば久世光彦とか。けれど、最近はそんな話を聞かない。それだけジャンルとして成立したといえるのかもしれない。でも私には、もはやあのレーベルが「おとな」が相手にするだけの価値がないからではないかと思えてならない。少なくとも、結局あのメフィスト賞から登場してきて、私が追いかけ続けている作家といえば、古処誠二ただ一人だけだ。あまりの日本語のマズさに、焼却炉に叩き込んでやろうかと思った作家も一人や二人ではない。

こうして私は毎月発売日にチェックしていた講談社ノベルスを見ることをやめてしまった。創元推理文庫はもうちょっとちゃんと見ている……が、最近なんか方向性変わってきてませんか。こうなってくると、段々新刊書店にも行かなくなってくる。あらあの作家、新刊出てたの?なんてこともしばしば。

そんななかで、光文社は面白い。
もともと注目し始めたのは、『本格推理』という投稿短編を集めた文庫本のシリーズだった。選者は鮎川哲也。当然ながら玉石混交ではあったけれど、今にして思えばその後作家になった投稿者も散見される。なにより、選者の鮎川哲也のコメントがいいところをちゃんと褒めていて、読んでいて気持ちよかったのだ。光原百合とかもここに投稿してたっけ(<PN違うけど)。へぇ新人作家の発掘やってるんだーと思っていたら、思いがけず鮎川哲也や芦辺拓、二階堂黎人などが古い『宝石』『新青年』などから再発掘を始め、ミステリを財産として残そうという『光文社シェラザート財団』なるものもできたし、山田風太郎や高木彬光、都筑道夫や岡本綺堂などの絶版になったシリーズの再刊も始めた。「コミケでうけるんじゃないの?」……そんな方針で選ばれた本より余程信頼できる。

そんな風に思っていたところに、光文社が始めたのが「KAPPA-ONE登龍門」だ。新人作家のデビュー作を出すカッパノベルスのレーベル。今のところ、一番のヒットを出している作家は石持浅海(『アイルランドの赤い薔薇』『月の扉』『水の迷宮』)かな。二冊目三冊目は読んで、ものすごくヒットだとも思わなかったけど、堅実な本で、面白いと思った。そのほかにもここから何冊か読んでみて思ったのは、「きちんとした本だな」ということ。日本語が。……それを評価しなきゃいけないことは情けないけど、それすらちゃんとできてない本が他のレーベルは多かったのだ。他にも全シリーズとおしてカバーのデザインを揃えてみたり(かけるカバーはタイトルと作者だけの真っ白、そのほかに表紙の2/3くらいを占める華やかなイラストと目立つコピーをかけ、帯は一切かけない、とか)、工夫が感じられて、このレーベル自体が目を引く。

と、前置きが大変長くなりましたが、この本もここのレーベルから出た一冊。KAPPA-ONE登龍門から出たというデビュー作は読んでいないけれど(なにせタイトルが『眼球蒐集家(アイボールコレクター)』。ホラー小説、特に眼球系攻撃で綾辻『殺人鬼』も挫折した私が絶対手に取れないタイトル)、「わたしの彼は殺人鬼なのでしょうか!?」というキャッチコピーは結構目を惹く。カバーと口絵が結構好みの絵だったのでつい手に取ったのだけど、ぱらぱら読んでみて台詞のやり取りが面白かったので買ってみた。

あとは表紙にあるとおり「才気走る妄想!」というところかな……ヒロインかつ語り手の茅乃という女性は、一人で考えすぎてぐるぐるまわってかつその妄想が自家発酵するタイプ。どこまで行くのかしらこの妄想は、という感じで面白いです。暴走する妄想のテンポの良さが面白かったので。

ではミステリとしてはどうかというと、美しいロジックを期待してはいけないというか、これってHOWもWHOもなくてひたすらWHYだけで引っ張ってるようなとか、二時間で読みおわったかなーというか二時間ドラマでも(刑部級の美形役者を連れてこれるなら)いいかなーというか。なんだか解決編がものすごくバタバタと片付いたなっていうか、そんなにあっさり犯人が告白してていいんかい!とか……思うところはないでもないんだけど、なにか妙な勢いがあったので、面白かった。表現力はあるんだけど、描写が変でおかしい。

それでも五冊六冊平行読書当たり前の私に、二時間で読み終えさせるくらいには集中力を引っ張ったわけだしー、だけど字の詰まったコバ●ト文庫という気がしないでもないかも……なんかこの本の「ミステリとしての良さ」ってどこら辺にあるんだろう、などと思い始めた頃、よくよく見たら裏表紙にちっちゃく「長編ロマンティック・コメディ 書き下ろし」とありました……ミステリじゃなかったんかい!<そういう意味ではいさぎよいですこのレーベル。正直だ(笑)。

結局のところ、(強烈な)キャラクターで読ませる小説ということでしょうか。<このエピローグはもはやファンタジー…。
そういう意味では、少女漫画でミステリネタの原作を探している人がいたら、オススメします。

個人的にはこのノリ、好きなんですけどね。いつか古本屋で遭遇したら、前作も買ってみようと思っています(定価で買うには眼球が怖い)。

……なんだか、この文章の前半とまったくかみ合っていない感想だなあ。<そもそもこの本、ミステリじゃないらしいし。

2005/04/12