| ■藤原 和博、宮台 真司 (ふじわら かずひろ、 みやだい しんじ) |
| 『人生の教科書 [よのなかのルール]』 ちくま文庫 (2005年5月刊) →Amazon |
学校では教えてくれないこと。 なぜ人を殺してはいけないのか。離婚するってどういうことなのか。自殺は。性同一性障害とは。過食症。人工授精。お金を儲けるって?接待ってなに?家を建てるってどういうことだろう? 「よのなか」は学校で教えてくれないことで満ちていて、そしてそれに学校で教えてくれるような「正解」はないのだ。この世界で生きていくために、もはや学校は「殺人」や「給料」や「離婚」や「自殺」をタブー視してはならないという趣旨のもと、そんな「よのなかのルール」について考え、成熟化社会を生きていくためのパスポートとしての一冊。 私は宮台真司という人が大嫌いです。 『終わりなき日常を生きろ―オウム完全克服マニュアル』(ちくま文庫)も首を傾げながら読んだのだけれど、決定的になったのは、『美しき少年の理由なき自殺』(メディアファクトリー、現在は『この世からきれいに消えたい。―美しき少年の理由なき自殺』と改題して朝日文庫刊)を読んでから。死にたい死にたいと延々とノートに書き連ねる少年の意識を私は「美しい」とは到底思えなかったし、そしてそのナルシシスティックな文章にぐらぐらと揺れる宮台の文章も。読みながら、著者も、自殺した少年も、憎悪していたと言っていい。家にあったから読みましたが、もう二度と読まん。 ………とまで思ってる人の本を手にとったのは、名解説ばかりを集めた限定非売品のちくま文庫に、この本の解説がおさめられていたから。執筆者は作家の重松清。実は私、この人の本は読んだことないのですが、藤原和博というもう一人の編者へのインタビューが面白かったので、手にとってみようかなと思いました。宮台入ってるけど、まあいいかと。 なぜ人を殺してはいけないのか。 少年犯罪が凶悪化するなかで大人たちは、子どもから投げかけられるこの問いかけに対して、右往左往するばかりだった。新書本でも何冊か出ていましたね。ぱらぱらと立ち読みしてみたけれど、どれもぱっとしない答え。ああもう、大人は子どもに渡せる答えを持っていないんだなと思いました。私の答えは簡単。「私はやりたいことがたくさんあるから、殺されたくない。だから他の人も殺されたくないだろうと思うから、殺さない。」………でもこれって「俺は殺されたって別に構わない、それなら殺してもいいのか」と言われてしまえばお手上げ。ってことは、私も無力な大人の仲間入りですか。ちょっとがっくり。 さて、この『人生の教科書』の序章も「なぜ人を殺してはいけないのか」から始まる。執筆者は宮台真司。 おためごかしの道徳論などは持ち出さない。近代過渡期から成熟社会への変化と、その社会の変化に教育が追いつけていない現状と(私も「みんな仲良し」って教育は気持ち悪いと思う)をあげ、「自尊心」と「承認」というシステムをあげる。人は他人との関係性のなかで自分自身を認められないと、やっていけない。だから承認してくれる「他者」が必要で、それゆえに人を殺してはいけない。こうやってまとめちゃうと飛躍しているような気もしますが、原文を読むとなるほどと思います。もっとも、子どもの頃に「承認」を与えられずに来た子どもたちがこの答えで納得するか、ということには疑問ですが、次の世代に向けて、子どもを育てていく大人にこそ読まれるべき。―――本の終章が「意味なき世界をどう生きるか?」で、私が上述した自殺した青年の話をとりあげ、「終わりなき日常」「まったり生きる」「意味から強度へ」と宮台の世界に突入してしまうのですが、本の趣旨もあって無駄に挑発的な書き方はあまりされていないので(ないとは言わんが)、比較的読みやすいかと。 編者代表である藤原和博という人は、リクルート出身。民間人初の公立中学校校長として注目された人だそうです。彼のパートで面白かったのは、「1個のハンバーガーから世界が見える」という章。元サラリーマンだけあって、200円のハンバーガーからその原価、コスト、出店システム、為替まで幅広く話題が展開する。この人のパートは比較的中学生を想定した書き方になっていますが、大人が読んでも十分に面白い。 この藤原氏はいくつか章を担当していますが、そのうちひとつに性同一性障害の章がある。なんだかこの本のなかでやや唐突感のあるテーマのような気もしますが、実際に女性として生きることを選択した人たちの言葉は迫力がある。蔦森樹『男でもなく女でもなく―本当の私らしさを求めて』(朝日文庫)を読んだときにも思ったのですが、この人たちの「本当の私はこうじゃない」という思いにかける努力はすごい。女として生まれて女として扱われて、特に違和感もなくだらだらと生きている私など、「女である」とこの人の前で胸を張って言えるかというと、私にはその自信はない。この藤原氏の章のなかに、性転換手術を受けたくららさんという人の話がありますが、ひとくちに性転換手術というとき、具体的にどんな手術をするか、知ってますか?身体のなかでもっとも敏感な部分を作り変えるためにこれだけの処置をしなければならないということ、私が彼らの立場におかれたとき、その勇気があるだろうか……と、考えてしまった。 あとは自殺かなあ……監察医の呟きとして一章を割かれていますが、執筆者が『法医学教室の午後』(朝日文庫)で有名な西丸与一。私はこの人の文章、あたたかくて好きですが、今この時代に「自殺」を取り上げるにしては、いささか症例が古いかなあという気がしないでもありません。痛みを覚えさせる話ではあるけれど、今の子どもたちにはいささか遠いかも。 子どもだけじゃなくて、大人が読んでも発見がある本だと思います。 読むだけじゃなくて、考えさせられる本。面白いです。 |
| 2006/03/19 |