ICS2001 A-Final 各レッグの難易度の考察


今年のインカレショートのテレインは、今までになくフラットでかつ独特の微地形を有するものであった。この未経験のテレインで選手たちがどのようなレースをしたかを探るために各レッグのラップのばらつきを調べてみた。その結果、驚くほど直感と合う結果が得られたのでここに紹介する。この結果を踏まえて自己分析を行うことによりオリエンテーリングにおける危機管理の問題に関心を持って欲しい。

最近はラップの分析が盛んに行われ、それぞれの選手がどのレッグでどの程度のミスをしたかがかなり正確に分かるようになった。しかしこのデータはどこまで活用されているのだろうか? 巡航速度が遅いことを嘆き、ミス率を見て今度こそミスを減らそうと決心をし、1つでもベストラップに近いレッグがあればそれなりに満足し、後はミスをしたレッグに対して「たられば」を述べて終っていないだろうか。

一般的に失敗したところはよく反省するが問題がなかったところをしっかり反省する人は少ない。しかしこの一見うまく行ったと思っているレッグの方にも上達のヒントが隠されている。うまく行ったのは「結果だけ」ではなく、本当にうまく行くべくして行けたのかと自問自答してみることは有益である。筆者は「結果オーライ」でしかないのに、うまく行ったレッグと勘違いしている人があまりにも多いことを知っている。ちょっと分析的に質問をしてみるとすぐに何の危機管理もされていなかったことが見えてくるのだ。こういうオリエンテーリングを続けている限り必ずどこかで痛い目を見ることになる。

前置きはさておき筆者は入手した全選手のラップを使って、各レッグの難易度に相当するであろう指標を計算してみた。何のことはない、単にタイムのばらつき(標準偏差)を計算してみただけだ。しかしこの単純な数値からいろいろな分析ができる。以下にME35名、WE23名の標準偏差を示す。このタイムが大きいほどそのレッグでうまく行った人とそうでなかった人との差が大きいということである。別の見方をすればそのレッグは高い危険性を内在していたということになる。

<ME>
 G     11    10    9     8     7             6       5      4      3     2     1
0:08  0:08  0:58  1:16  0:19  1:21          0:19    3:08   2:13   2:07  1:50  0:30 

筆者は会場で販売されたこの地図を買って最初に見た瞬間、前半の1〜5が難しいと感じた。果たして選手たちの結果もその通りの数値を示している。5番が一番ばらつきが大きいのは途中に緑の部分があることとコントロール廻りが難しかったためだろう。それに比べれば6〜8番は比較的に容易でほとんどの選手が問題なく割り切って進めていることが分かる。7番の数値がやや大きいのは距離が長いのと途中でのチェックが必要なためだろう。問題は9、10番である。6〜8番を単調に走って来た直後であること、ビジュアルで声援を受けて精神的な動揺があることなどが大きな要因であろう。

<WE>
 G     9     8     7     6     5              4         3             2      1
0:07  1:34  0:27  0:35  0:20  1:05           0:51      0:39          0:27    3:50

女子は1番でいきなり飛んでしまった人が多い。確かにレッグとしても難しい部類かもしれないが、最初だけに精神的な要素も含まれるだろう。すぐに割り切ったプランを立ててすんなり行った人と、地形が分からずに最初から考え込んでしまった人がいたことも想像される。3番が距離の割には数値が小さいのは道が使えることだけではなくアタックポイントが明確だからだ。4番は緑に突っ込んでタイムをロスした人によるばらつきだろう。女子のビジュアル直後の8番は距離が短かったので男子のように大きく飛んだ人はいなかったようだ。替わりに最後のラスポで波乱が生じている。それほど難しいレッグとも思えないので明らかに最後に緊張の糸を切らしてしまった人がいることが原因だろう。

標準偏差を元に各レッグの難易度(と言うより他の要素もあるので「危険を内在する程度」と言った方が良いかもしれない)を考察してみた。是非自分のラップを見て比較して欲しい。標準偏差が大きいレッグでトップラップに近いタイムを出している人、もしそれが適切なプランに裏付けされたものであれば賞賛に値する。しかしもしそれが結果オーライの世界だったら・・・ あなたはとても危ないオリエンテーリングをしていることになる。是非今から十分な危機管理を身につけて3ヶ月後には満足のいく走りをして欲しい。